夫婦で創業融資は受けられる? 配偶者の自己資金・役割分担・注意点を解説
夫婦で一緒に新しい事業を立ち上げようと決意した際、創業融資を受けられるのか疑問に思う方は少なくありません。結論から申し上げますと、夫婦で起業する場合であっても創業融資を受けることは十分に可能です。
ただし審査においては、夫婦関係そのものではなく、誰が申込者(代表者)になるのか、それぞれの役割分担はどうなっているのか、自己資金の出どころや家計と事業資金の分離がなされているかなど、事業としての実現性を客観的に整理することが求められます。
そこで本記事では、配偶者の自己資金や役割分担、注意点などについて解説します。
8万人が利用した事業計画書作成ツール
ブラウザ上の操作で事業計画を作成、創業計画書もエクセルでダウンロード可能
元日本政策金融公庫の融資課長として5000名以上の起業家を支援した上野アドバイザー。現在は、資金調達の専門家として活躍されております。融資を検討されている方はぜひご相談ください。
著書「事業計画書は1枚にまとめなさい」「起業は1冊のノートから始めなさい」など。
プロフィールを見る>>

目次
1.夫婦で起業する場合でも創業融資は受けられる?
夫婦でパートナーシップを組んで起業する場合であっても、金融機関から創業融資を引き出すことは十分に可能です。
日本政策金融公庫などの公的な金融機関では、営業実績や取引実績が乏しいことなどを理由に資金調達が困難な創業前、および創業後間もない方に対して、手厚い創業時支援の枠組みを案内しています。夫婦での創業という形態だからといって融資が難しいというわけではなく、適切な準備をおこなえば強力なスタートダッシュを切ることができます。
情報出典:日本政策金融公庫「創業支援」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/promotion/
1)夫婦で起業しても創業融資の対象になり得る
金融機関の審査においてもっとも重視されるのは、申込者が夫婦であるか否かといった属性ではありません。作成された事業計画に現実性があるか、必要な資金が具体的に計算されているか、そして提示された数値に返済可能性がともなっているかを説明できることが不可欠となります。
夫婦という形態は、互いの弱みを補い合える強みになる一方で、あやふやな管理体制になりがちという懸念も抱かれやすいため、論理的な計画書を作成して融資の対象として正当に評価される状態を目指すことが大切です。
2)審査で見られるのは事業の実現性
審査の場で担当者がきびしくチェックするのは、夫婦の仲の良さや情熱ではなく、あくまでビジネスとしての実現性です。
事業の具体的な内容はもちろんのこと、代表者自身の業界経験やスキル、蓄えてきた自己資金の額、実現性の高い売上見通し、そして確実に元本と利息を返済していける計画の確実性が評価の対象となります。夫婦で一丸となっていても、事業経験が不足していたり収支計画に無理があったりすれば、融資を受けることは難しくなります。
3)配偶者の収入・家計状況も資金繰りに関係する
創業後の生活基盤をどのように維持するかという点は、資金繰りの安全性をはかるうえで金融機関が注目するポイントです。もし配偶者が別の会社などに勤務して安定した給料を得ている場合、それは創業初期における生活費の支えとなり、事業への過度な負担を減らすプラスの材料として機能し得ます。
ただし、配偶者の収入が存在することだけを理由に融資が決定されるわけではありません。基本となるのは、立ち上げる事業単体でしっかりと利益を出し、自力で返済をおこなっていけるかという点であることを忘れてはなりません。
2.夫婦起業で整理すべき役割分担
夫婦で事業をスタートさせる際にもっとも大きな課題となるのが、企業としての意思決定ルートと業務上の役割分担をあらかじめ明確にしておくことです。
みずほ銀行が提示する創業計画書の作成手順においても、経営主体のスキルや体制を客観的に示すことが重視されています。誰が最終責任者として事業を牽引し、誰がどのような実務を担当するのかを文章化し、事業計画書上で納得感のある体制を提示しなければなりません。
情報出典:みずほ銀行「創業期の資金調達に備える 事業計画書の作成手順とポイント」
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/account/tips/topic_100.html
1)どちらが代表者・申込人になるか
夫婦のうちどちらが代表者として創業融資を申し込むべきかについては、単なる名義だけの問題ではありません。これまでのキャリアや実行力をもとに、もっとも説明しやすい人物を選ぶのが鉄則です。
過去に同業種での勤務経験が豊富であったり、マネジメント実績や専門資格を保有していたりする側が代表者となることで、審査における信用力は飛躍的に高まります。単に名義だけを夫や妻にして、じっさいは配偶者が指示を出して動かすような体制は、面談時の質問ですぐに見抜かれてマイナス評価につながります。
2)配偶者は共同経営者か、従業員か、サポート役か
配偶者が事業にどのように関わるのかについて、立場を明確に分類して定義しておく必要があります。対等な意思決定権とリスクを分かち合う「共同経営者」とするべき場合ばかりではありません。
代表者の指揮下で決まった業務をこなして給与を得る「専従者・従業員」とするのか、あるいは普段は別業種で働きながら休日のみ手伝う「サポート役」にとどめるのかも含めて整理が必要です。この立場によって、必要となる人件費の計上方法やリスク管理、意思決定のプロセスが大きく変化することになります。
3)夫婦それぞれの経歴を事業にどう活かすか
それぞれの過去の職歴や取得してきた資格、培ったスキルや人脈が、今回の事業においてどのように機能するのかを具体的にストーリー化して伝えます。たとえば「夫は長年の調理経験と接客スキルを活かして現場の店舗運営を統括し、妻は前職のWebマーケティング会社での経験を活かして集客と経理財務を一手に担う」といった形です。相乗効果を説明できれば、二人三脚で事業をおこなう妥当性と強みが審査担当者に強くアピールできます。
3.夫婦の自己資金はどう見られるか
創業融資の審査において自己資金の存在は極めて重要な意味を持ちますが、夫婦で準備した資金を申請する際にはその性質を正しく説明できるように整理しておく必要があります。準備したお金が自分たちのコツコツとした努力による自己資金なのか、配偶者からの個人的な借入なのか、あるいは贈与されたものなのかを客観的な資料とともに証明しなければなりません。
情報出典:日本政策金融公庫「創業計画の書き方」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/business-plan/
1)夫婦の貯蓄を自己資金として使う場合
長年の結婚生活のなかで貯めてきた夫婦共有の預貯金や、配偶者名義の口座に保管されている資金を創業資金として充当する場合、その成り立ちを丁寧に説明する準備が必要です。単に通帳の数字を示すだけでなく、それが日常の給与などから計画的に積立されてきたものであることを通帳の履歴で提示します。
名義が配偶者であっても、実質的に夫婦の共同生活の中から形成された資産であれば、適切な説明と通帳などの提示をおこなうことで、自己資金として評価してもらえる可能性が高まります。
2)配偶者からの借入・贈与の扱い
配偶者個人の資産から創業資金の提供を受ける場合、その資金が返済義務のある「借入」なのか、返済不要の「贈与」なのかを明確に区分しておくことが必要です。
返済義務がある借入金の場合、審査上は自己資金ではなく負債(将来の返済負担)として扱われ、信用力が低下する恐れがあります。一方で贈与の場合は、贈与税の問題に留意しつつ、双方の間で合意がなされていることを示す書面や履歴を残しておくことが、のちのトラブルや誤解を防ぐポイントとなります。
3)見せ金に見えないようにする
融資の申込みをおこなう直前のタイミングで、配偶者の口座から代表者の口座へ不自然に大きな金額が一括で移動していると、審査担当者から「見せ金(一時的に借りて自己資金に見せかけたお金)」ではないかと疑念を抱かれるリスクが生じます。急な大口振込が存在する場合は、どのような目的で移動したのか、元々の資金はどのように貯められたのかを示す配偶者側の通帳コピーや証明書類を添えて、資金の正当な背景をオープンに説明できるようにすることが大切です。
4.夫婦で創業融資を受けるときの注意点
夫婦で起業を進めるにあたっては、プライベートな家庭生活とビジネスの現場が地続きになりやすいため、お金の管理において細心の注意を払わなければなりません。資金計画を立てる際は事業で必要となる資金だけでなく、自分たちの生活を守るための生活費までを見越した全体像の把握が不可欠です。
どんぶり勘定を排除し、不測の事態にも耐えうる強固な資金計画を事前に構築しておくことが求められます。
情報出典:みずほ銀行「事業計画書とは?主な記載項目と書き方のポイント」
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/account/tips/topic_09.html
1)家計と事業資金を分ける
夫婦起業でもっとも頻繁に発生する失敗が、個人の家計口座と事業用の口座を明確に区別せず運用してしまうケースです。家計口座から事業の仕入れ代金を支払ったり、売上金をそのまま日常の買い物に使ったりしていると、事業の正確な採算が把握できなくなり、資金繰り表の作成も不可能になります。
開業前の早い段階で専用の事業用口座を開設し、生活費と事業資金の出し入れを完全に分離させて管理する体制を構築することが信頼獲得の前提となります。
2)生活費を事業資金に頼りすぎない
創業して間もない時期は、計画どおりに売上が上がらず、収益が安定しない期間が一定程度発生するのが一般的です。
夫婦二人が同時にこれまでの勤務先を辞めて事業に専念する場合、二人分の生活費をすべて立ち上げたばかりの事業の利益から捻出しなければならなくなります。創業初期の資金繰りを圧迫しないためにも、あらかじめ数カ月から1年分程度の生活防衛資金(プライベートな貯蓄)を事業資金とは別に手元に残しておくか、生活費の負担を最小限におさえる準備をしておく必要があります。
3)家庭事情も計画に影響する
夫婦で事業を営む場合、二人の個人生活におけるイベントやアクシデントがそのまま事業の継続性に直結するという特有のリスクを考慮する必要があります。
将来的な出産や子育て、あるいは双方の両親の介護、突然の病気や怪我といった家庭事情により、どちらか一方が長期間現場を離脱せざるを得なくなる事態も想定されます。そのような場合でも現場の業務がストップしないよう、外部への業務委託や非常勤スタッフの採用計画など、代替となる体制をあらかじめ計画に盛り込んでおくことが望ましいです。
4.夫婦起業の創業計画書に書くべきこと
融資審査を通過するための創業計画書を作成する際は、単に事業の魅力を伝えるだけでなく、「なぜ夫婦で取り組むのか」という必然性と具体的な運営シミュレーションを書き込むことが重要です。それぞれの役割、人件費の設定、生活費の算出、そして確実な返済プロセスを数字と論理によって客観的に証明していく作業を進めましょう。
情報出典:日本政策金融公庫「創業計画の書き方」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/business-plan/
1)創業の動機
なぜ一般的な個人創業や他者とのアライアンスではなく「夫婦でこの事業をはじめるのか」というストーリーを創業の動機欄で明確に記述します。二人のキャリアの掛け合わせや、市場のニーズ、見出した事業機会を提示しながら、夫婦で取り組むからこそ顧客に価値を提供でき、競合に対して優位に立てるのだという強い根拠を記述することが求められます。単に「一緒に働きたいから」という感情的な理由にとどまらず、ビジネス上の必然性をアピールしましょう。
2)夫婦それぞれの役割
創業計画書内の「必要な資金と調達の方法」や「事業の内容」の項目において、二人の担当業務を詳細に記載しましょう。代表者が全般の意思決定、営業、仕入れを担当し、配偶者が接客、現場での作業、広報、経理財務を担当するなど、タスクの切り分けを具体的に記述します。このように役割分担が明確になっていることで、責任の所在がはっきりし、互いの業務が重複して人件費が無駄になる懸念を払拭することができます。
3)売上計画と人件費
配偶者を従業員や役員として、事業から給与や役員報酬を支払う予定である場合は、その人件費を毎月の損益計画および収支シミュレーションへ正確に組み込まなければなりません。配偶者への支払いを「余った利益から適当に渡す」という曖昧な計画にするのではなく、毎月固定の経費として計上したうえで、なおかつ事業として利益が残り、融資の返済原資を確保できるという健全な数字の証明が必要となります。
4)生活費と返済計画
算出された事業の純利益から、代表者自身の生活費(役員報酬や事業主貸)をいくら引き出し、残った資金から毎月の融資返済額をどのように支払っていくのかというプロセスを明示します。夫婦の生活費の最低ラインをしっかりと計算したうえで、売上が目標の8割程度に落ち込んだ場合でも、生活を維持しながら返済を滞りなく続けられるという保守的なシミュレーションを添えることで、計画書全体の信頼性が劇的に向上します。
5.よくある質問
夫婦での創業融資に関しては、個々の家庭状況や働き方のスタイルによって疑問や悩みを抱えるポイントが多岐にわたります。ただし、最終的な判断は利用する融資制度や金融機関の個別の審査基準によって異なるため、申込みを予定している窓口へ直接相談しながら進めることが推奨されます。
情報出典:日本政策金融公庫「創業支援」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/promotion/
1)配偶者の収入があると創業融資に有利ですか?
別で働いている配偶者に安定した給与収入がある場合、創業初期における世帯全体の生活基盤が安定するという点において、審査上の安心感を与える材料にはなり得ます。しかし、それだけを根拠に融資の可否が決定されるわけではありません。
金融機関がもっとも重視するのは、立ち上げる事業自身が十分な利益を生み出し、貸し付けた資金を自力で返済できるかという点です。配偶者の収入はあくまで補完的なプラス要因であり、事業計画の精度を高めることが最優先となります。
2)配偶者名義の貯金は自己資金になりますか?
配偶者名義の口座にある貯蓄であっても、それが結婚後に夫婦で協力して形成した実質的な共有財産であり、今回の創業資金として使用することに配偶者自身の明確な同意がある場合は、自己資金として認められるケースがあります。
ただし、その資金がどのように貯められたものなのかを通帳の履歴などで説明できなければなりません。必要に応じて贈与手続きをおこなって代表者の口座へ移動させたり、資金の出どころを客観的に示す資料を添えて申請したりする工夫が必要となります。
3)配偶者を保証人にする必要がありますか?
かつては事業資金の融資において配偶者を連帯保証人とすることが一般的でしたが、現在は経営者保証に関するガイドラインの普及や、日本政策金融公庫の創業融資に代表されるように、第三者保証人を不要とする融資商品が主流となりつつあります。そのため、必ずしも配偶者を保証人に立てなければならないわけではありません。ただし、利用する制度や特定の金融機関の判断によっては保証を求められる場合もゼロではないため、事前に必ず確認が必要です。
まとめ
夫婦で創業融資を受ける際にもっとも重要なのは、仲の良さや情熱といった要素ではなく、事業としての実現性、明確な役割分担、自己資金の正当性、そして家計と事業資金の徹底的な分離です。二人の強みをどのように掛け合わせてシナジーを生むのかを整理し、万が一売上が低迷した際でも生活を維持しながら確実に返済を続けられる計画を数字で提示することが審査通過への鍵となります。
夫婦起業ならではの複雑な役割分担や人件費の設定、生活費を含めたシミュレーションなど、完成度の高い創業計画書を自力で作成することに不安や難しさを感じる方は、専門的なサポートを活用するのが近道です。説得力のある書類を効率的に作成したいとお考えであれば、専門的なフォーマットとガイドに沿ってスムーズに作成を進められる事業計画作成ツールの活用をおすすめします。万全の準備を整え、夫婦での理想的なスタートを勝ち取りましょう。
元日本政策金融公庫の融資課長として5000名以上の起業家を支援した上野アドバイザー。現在は、資金調達の専門家として活躍されております。融資を検討されている方はぜひご相談ください。
著書「事業計画書は1枚にまとめなさい」「起業は1冊のノートから始めなさい」など。
プロフィールを見る>>











