スマート開業事例~人工知能に特化したシステム開発のビジネスで独立・開業。Entity-understanding 江口 天氏

冒頭

人工知能に特化したシステム開発のビジネスで独立・開業したEntity-understandingの江口 天氏に、開業までの経緯と、開業後の経営、経理業務について伺った。 江口氏は、2004年、東京大学大学院を修了後、NTT通信研究所に入社し、情報セキュリティーの開発業務に従事。そして2007年、ドイツのスタートアップ企業、Value Price AGに身を転じ、金融系システムの開発に携わった後、ドイツのMicrosoft社に入社。ここでは、Sharepoint サーバの検索エンジンの開発や、日本語の自然言語処理の開発などに携わっている。そして、日本Microsoftへの異動後、Bingの検索エンジンの開発に従事していた。

そうやって、最先端のシステム開発を経験し、2014年に、ベイシステクノロジー社に転職する。自然言語処理のエンジニア、コンサルタントとして、国内及び北米でのコンサルティングを担当した後、今度は、カナダのスタートアップ企業で、日本語の音声認識開発プロジェクトに参画。江口氏は、数々の開発現場で培った経験を生かすため、2015年1月、日本に戻って開業した。

ディープラーニングなどでの画期的な成果発表が相次ぎ、ここ最近、注目度が急増している人工知能だが、まだまだバズワードの段階で具体的に何ができるか理解が進んでいない。江口氏は、そこに大きなチャンスを見いだしたのだ。今、彼は、人工知能をビジネスに生かすという観点での啓蒙活動、セミナー開催なども行っている。
社名 Entity-understanding (屋号 個人事業主)
代表 江口 天 (Eguchi Takashi)
所在地 愛知県名古屋市
開業時期 2015年1月
事業内容 人工知能に特化したITシステムの研究・開発、人工知能プロジェクトに関するコンサルティング、人工知能についての講演、啓蒙活動など。

※ 当記事内でご案内している事業計画書のサンプルは、インタビュー内容をもとにドリームゲート事務局にて独自に作成したものになります。実際に事業計画書の数字とは異なる事をご了承ください。

1:起業・開業した経緯 NTTの研究所からドイツのベンチャーに参加。マイクロソフトに転職したことで自然言語処理と出合い、これを一生の仕事と決めた

大学院を出た後、NTTの通信研究所に入りました。実は専門は化学系で、ここでは人工知能の研究とは関係ない仕事をしていました。転機となったのは2007年頃にドイツのベンチャーに参画し、そこで初めて本格的にプログラムを始めたことですね。ただ、そのベンチャーがうまくいかなかったので、ドイツのマイクロソフトに転職して、Sharepoint サーバの検索エンジンの開発などを担当し、その後、日本マイクロソフトに異動となってBingの検索チームに参加しました。マイクロソフト時代に自然言語処理(NLP)の研究やシステム開発に携わったことで、これを一生の仕事にしていくことを決めました。

もともと大企業や巨大組織のなかで仕事をするより、一人で何かをしたいという意向が強かったので、マイクロソフトを辞めたあと、再びベンチャーの世界に飛び込みました。そこは、ベイシステクノロジー社という言語処理ソフトウェアで世界的に有名なITベンチャーで、その後はカナダにあるベンチャー企業に転職し、Siriの対抗版のようなアプリ開発に参画しました。ただ、スタートアップならではというか、組織自体が不安定だったこともありプロジェクトはうまくいかないまま2014年をもって終了したため、2015年1月に帰国。独立・開業しました。

2:起業・開業で準備したこと 漠然としたビジネス構想が、専門家に相談することで具体化

実は、日本で開業届を出した直後は、漠然としかビジネスを考えていなかったので、まず人工知能の分野におけるアメリカと日本のギャップを考えていきました。人工知能やA.Iという言葉自体が、バズワードとして広がり始めた頃なので、この市場には大きなチャンスがあると思っていました。 ただ、具体的に何ができるか、という点ではまだまだ手さぐりの状態です。1つ明確だったことは、日本は「日本語」という言語の壁があるので、日本語に対応した人工知能の研究・開発には大きなチャンスがあるということ。なので、まずは日本向けにA.Iをつくることから始めようと考えました。 また、ビジネスとして具体的に何を始めるべきかについては、ドリームゲートの相談サービスを利用しました。人工知能ビジネスのQ&Aをネットで調べていて、たまたまドリームゲートのWebサイトにたどり着いたのです。そしてQAの回答者であったドリームゲートアドバイザーの福田 宗就さんに相談をしてみました。

実際に福田さんとお会いして、そこからいろいろな人を紹介してもらいました。 また、人工知能の専門家ネットワークのハブ役となるべき、という助言もいだきました。そこで、まずは人口知能の啓蒙活動を進めていくことにしました。 ちなみに、開業した際のオフィスは千葉の柏市にあるKOILというインキュベーションセンターです。私の自宅が流山市なので、自転車で15分ほどの距離にあります。このKOILは三井不動産が運営していて、すごくお洒落で快適なインキュベーションセンターです。KOILからの依頼で、人工知能のセミナーなどもさせていただきました。 仕事道具は、MacBook一台だけ。これさえあればどこでも仕事ができます。データもソフトも徹底的にクラウドを活用しています。クラウドならネットにつながればどこからでも仕事ができる。これが最大のメリットですね。

3:起業・開業後の営業活動 開業してしばらくすると、ネット経由で絶え間なく仕事がくるようになった

そうした啓蒙活動を進めていくと、人工知能に関するセミナーに呼ばれて講演をしたり、Webサイトから直接問い合わせがくるようになりました。福田さんからの紹介でドリームゲート事務局の方とも知り合い、人工知能コラムなどにも協力させていただき、私の名前でクレジットも入れてもらいました。 最近は(インタビューを実施した2015年9月時点)、株式会社オルツという人工知能ベンチャーの主任研究員として、個性をコピーするA.Iの開発に取り組んでいます。

オルツの米倉 千貴社長との出会いも、ネットの問い合わせからでした。米倉さん曰く、ネットで「NLP 人口知能 開発者」などで検索して私のサイトが上位に出てきたので、声をかけたということでした。私は2015年5月からオルツ社にジョインしているのですが、米倉さんの構想している人工知能のビジネスに参加できる事は、願ってもないことでした。オルツはもはや、私の一番のライフワークになっています。

ちなみに、今の屋号である「Entity-understanding」は、AI技術によって、Entity=世の中にあるすべてものを、understanding=正しく理解し、社会に役立てるという志でつけたのですが、今思うとちょっと長すぎるのと、専門的すぎたかと反省しています(笑)。 来年には法人化する予定なのですが、その時は「グリンプス」という社名にしようと考えています。「glimpse=ちらりと見る、垣間見る」という意味ですが、人工知能の将来を垣間見るという意図をこめています。

4:開業後 はじめての経営 経理・帳簿づけ

開業後の経理業務については、商工会で知り合った税理士さんに顧問をお願いしていますが、顧問といっても毎月の顧問料を払えるような段階ではないので、無料でいろいろと教えてもらっています。 会計ソフトは「やよいの青色申告 オンライン」を利用しています。来年3月が初めての確定申告になるのですが、ほかのソフトなどとも比較して、実際に使ってみた結果、「やよいの青色申告 オンライン」に決めました。税理士さんにすべてお任せではなく、お金の流れは常に把握しておきたいというのが、会計ソフトを使っている一番の理由です。ある程度会社が大きくなれば、経理業務の専任スタッフなども雇えると思いますが、まずは自分でやってみる。何事も、経験することはとても大事ですからね。

会計ソフトといえば弥生というくらい知名度があるので、圧倒的に信頼感があります。開業前に商工会で帳簿付けの指導を受けたのですが、そこでも弥生を推薦されました。 GUIも非常によくできていて、導入してすぐに使いこなすことができました。最初の1年間が無料というのもありがたいです。今は「やよいの青色申告 オンライン」ですが、法人化したら「弥生会計 オンライン」にする予定です。データも引き継げるということで、個人事業主から法人化を考えている方には便利ですね。

また、クラウド版なので、今後も使いやすく進化していくだろうという期待感もあります。私は人工知能の研究者だからか、どうしてもそういう目線でソフトウェアを見てしまう(笑)。弥生の青色申告オンラインは、勘定科目などを自動的に候補表示してくれるオートサジェスト機能もあり、これであまり考えなくてもサクサクと入力できました。この辺は過去の利用データをもとに、人工知能で処理されていると聞いて、なるほどなと思いました。

あとは、自宅を事務所にしているので、事務所費用は自宅家賃を按分にして処理しています。光熱費、通信費などもそうですね。 2015年1月に開業して、3月末に最初の入金がありました。これは、受託したシステム開発の仕事の売り上げです。「やよいの青色申告 オンライン」は、銀行口座との自動連携処理も実装しているので、経理処理に慣れてきたら、その機能も活用して、もっと便利に使っていきたいと思います。

5:これからの展望・事業戦略 目標は誰でも簡単にAI技術が使えるようにする事

このインタビューを受けている時点で、開業してまだ10カ月。お蔭様でもうすぐ1年です。実は最初の受託仕事が終わった時、初売り上げ・初入金ということがとても嬉しかった半面、受託仕事をその後も続けていくことに疑問を感じました。やはり受託はあくまで他社のお手伝い。自分の製品をつくって、それを売っていくというスタイルに早く変えたいですね。人口知能で日本語を処理するという分野は、まだまだ競合が少なく、確実に需要はあるので、diamond in the rough(ダイアモンドインザラフ)。まだ磨いていないダイアモンド=魅力的な市場という状態です。 人工知能はこれからの30年間、経済の中心にくるテーマだと思います。自動車から腕時計まで、あらゆるものがインターネットにつながり、そして人工知能が搭載されるようになるでしょう。すでにスマートフォンには、人工知能が入り始めています。

みなさんが普段使っているアプリのなかでも、内部は人工知能化されているものがたくさんあるのです。 人工知能の凄みは圧倒的な生産性の向上です。例えばコールセンターなどは現在、人間が電話応対していますが、これが人工知能化すれば、人件費が一気に減らせるでしょう。そして、そのためのツールやエンジンづくりは始まったばかりといえます。

私の目標は、誰でも簡単にAI技術が使えるようにする世界をつくることですが、手始めに私のWebサイトに人工知能、自然言語処理の技術・概念がすぐ理解できるような、いくつかのツールを公開しています。例えば、適当な日本語の文章を入れると、その文章の意味を理解してカテゴリー分類してくれる機能や、文章中の重要な要素、人物や場所、日付などを抽出できるツールがお試しいただけます。ぜひ、アクセスして使ってみてください。そして、人工知能を自社のサービスに取り入れたいと思われた時は、ぜひお声かけいただければと思っています。