“安全率”を 意識して着実な船出を目指そう

公開日: 2015/03/15  最終更新日: 2015/06/11

安全率が高ければ高いほど、事業は長く継続できる

これから起業を目指す人にぜひ覚えておいて欲しいキーワードがある。“安全率”である。ここでいう安全率とは、保有しているキャッシュと毎月の運転資金の割合である。この比率が高ければ高いほど、事業の継続が可能になる。

2012年に、2687人の起業家へのアンケート調査を行った。下の棒グラフを見てほしい。黒字経営している企業(以下:黒字化企業)と、赤字経営に陥っている企業(以下:赤字化企業)との、安全率の違いを表している。

黒字化企業の、開業1年目の平均的な安全率は8.64ポイント。およそ8カ月以上の運転資金を保有している。しかし、2年目は2.75ポイントと下がり、3年以上で4.64ポイントと上昇し、10年以上が4.49ポイント。経営が安定していくなかで、それほど多額の余剰金がなくても、事業が回せる自信が生まれたということだろう。

逆に、赤字化企業を同様にプロットしたところ、1年目は5.50ポイント。2年目で1.15ポイントと運転資金が2カ月を切る。3年以上で3.18ポイント。同様に10年以上で2.93ポイント。いずれの年次で比べても、黒字化企業よりも安全率が低い。

もうひとつ、面白い結果が現れた。先述したが、黒字化企業、赤字化企業ともに、2年目の安全率が下がり、その後緩やかに上昇している。これが、いわゆる経営過程に出現する“ターニングポイント”の存在だ。

ITベンチャーの経営解説などで見られる、研究開発過程での資金難や、人材、組織構造などが要因となり、経営が困難な状況をデスバレーと呼ぶことにならい、同じように、中小企業にも、経営を安定させるため、2年目あたりに、同じような状況が訪れる事を示して“ターニングポイント”というキーワードを用いた。

黒字化企業と赤字化企業の2年目の安全率を比べると、2.75ポイントと1.15ポイント。運転資金の1カ月半の余裕が、2年目前後に忍び寄る“ターニングポイント”の深さを、大きく左右するのである。

経営の方向性の修正および改善には、いくばくかの出費が必要とされる。つまり、2年目前後に訪れる“ターニングポイント”の存在を認識し、これを上手に乗り切るためにも、早い段階で少しでも多くの手元資金を持ち、“安全率”を高めておくことが必要だ。そのためには、自己資金を多く蓄えることに加えて、借り入れを行うことで手元資金を厚くすることも検討するべきだろう。

開業時の資金調達先を検討するなら

この後の章で紹介する各12業種において、黒字化企業を経営している起業家の多くが、赤字化企業の安全率を超えている結果が出ている。そして、もうひとつ、開業時は開業後に比べ、比較的融資を受けやすいということである。

これについては意外に思われるかもしれない。確かに、一般の都市銀行では創業融資の依頼など門前払いだし、地方銀行でも難しいだろう。しかし、元来、政府系金融機関である日本政策金融公庫は別だ。

日本の開業率を高めることをミッションとした同行では、実績ではなく、事業計画をきっちりと審査し、開業を応援してくれるので、創業時にこそ融資を受けやすいというメリットがある。

また、これも意外と知られていないようだが、都道府県や市町村などの地方自治体にも、開業資金融資制度(無担保・無保証人の融資制度を含む)が必ずといってよいほど用意されている。各地方自治体の開業資金融資制度については、商工部(都道府県によって名称が異なる)などに問い合わせてみよう。

当然だが、日本政策金融公庫や各地方自治体の公的融資とはいえ、いい加減な事業計画では融資は認めてくれない。だからこそ、起業前に事業継続のイメージと、返済の計画をしっかりと立てておく必要がある。安全率を高めた起業を目指すためにも、まずは自己資金をしっかり確保して、資本の充実を心がけてほしい。