事業計画書サンプル&解説集 ITシステム関連業編~
独自の構文解析技術によってスケジュール管理やコミュニケーションを一変させうるアプリで開業した徳山 真旭さんの事業計画。

冒頭

日時・場所の情報をテキストから解析することであらゆるコミュニケーションと予定管理をプラットフォーム化するサービスの開発・販売をしている株式会社AnnchorZの創業者、徳山 真旭氏。

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「Promise Mail」はプッシュ通知やメールを送受信するだけで、予定がカレンダーに自動的に登録される、独自の解析エンジン。これは「PM-Engine」がスマホ内に搭載されることで実現している。

開発したのは株式会社AnnchorZ。代表の徳山 真旭氏は、PCユーティリティソフト「革命シリーズ」の生みの親でもある。「革命シリーズ」を大ヒットさせた後、通信パケット内部でセキュリティを高める無線技術を開発する会社に勤務し、副社長まで勤めた。その後40歳となった2009年4月に、激しく変化するIT業界でまだ誰も行っていないアイデアを閃き、これは大きなビジネスになると考え、株式会社AnnchorZを起業した。

2013年に世界特許を取得(2013年「韓国」「日本」、2015年「米国」、今後は中国、インド、EUと続く)、その画期的な技術を求めて、同社のクライアントには各業種の国内大手企業が並んでいる。

「まったく新しい価値を提案し、世界のインフラを築くことが目標」と語る徳山氏が開業時の考えていた事業計画の内容と、起業後には実際どうだったのかをインタビューしてきました。

社名 株式会社AnnchorZ
代表 徳山 真旭(Tokuyama Masaaki)
所在地 東京都千代田区
事業内容 「PM-Engine」(自社プロダクト)を活用したスマートフォンのアプリケーションやシステム開発・販売
URL http://anchorz.co.jp/
売上高 8,000万円
開業資金 300万円(自己資金)
安全率 1期目開始時:1.6
3期目終了時:4.9

安全率とは
安全率とはドリームゲート事務局で作成した概念で、手持ち資金÷月経費という計算で割り出した指数になります。
例えば、安全率が 5 の場合、5か月は売上・収益がなくても会社の運転資金が持つ、という意味になります。起業後は売上が思うようにあがらず、開業資金を消化していく時期が続くことが多く、資金ショートして廃業してしまうか、売上が伸び始め資金繰りが好転して廃業危機を乗り越えられるかの境目が、開業後1~2年目に多いことが、ドリームゲート事務局と弥生株式会社での共同アンケート調査によりわかりました。
つまり開業時に如何に手元資金を手厚くもってスタートできるかが、会社の生存率を左右します。しかもそれは1~2ヶ月分の運転資金で生存率が大きく異なるという結果が出ているため、ドリームゲートでは安全率を意識して開業しようという啓蒙活動をしております。

※ 当記事内でご案内している事業計画書のサンプルは、インタビュー内容をもとにドリームゲート事務局にて独自に作成したものになります。実際に事業計画書の数字とは異なる事をご了承ください。

1:開業費用の計画~通信技術のセキュリティ高める技術を開発する会社で副社長としてキャリアを積んだ後、自己資本300万円で起業。

開業時の自己資本は300万円。開業時の計画では、自社製品が完成するまでの間、収益をあげることは考えていませんでした。というのも、当社は、IT技術を開発するために立ち上げた会社。ものづくりメーカーであり、革新的な技術の開発とパテント化がテーマです。なので、事業計画は特許取得に向かってランニングコストを最小限に抑えながら、会社を運営していく事に主眼を置きました。

業前、サラリーマン時代の蓄えしかなかったため、それをうまく使って、イニシャル・ランニングコストを捻出しながら可能な限り大きなビジネスができないかと模索し続けながら経営をしていたというのが内情です。でも、実際に他社から仕入れたものを商品化する会社ではありませんから、仕入れコストはありません。初期費用でかかったのは事務所費用と開発用のPC機材ぐらいですね。

開業費の内訳は以下のとおりです。

●初期仕入れ費用 無し
●事務所費用など 68万円
●OA関連機器、什器備品費用 40万円
●文具・実務用品など 2万円
●会社設立費用・開業諸経費 30万円

初期仕入れ費用

ITシステムの開発のコストは人件費がほとんどなので、仕入れ費用などはゼロですね。

店舗契約費用など

当社は私を含め3名でのスタート。備品費用同様に最低限のスペースがあればいいので、イニシャルを抑えられるSOHOオフィスを借りました。また、このオフィスビルには、打ち合わせに使用できるラウンジや会議室もついていますのでそれもメリットでした。契約時は敷金と礼金を合わせて賃料4ヶ月分の68万円だったと思います。

OA関連機器、什器備品費用

電話機、ラック、文房具などのオフィス用品と、PCやPCデスクなど開発に必要な環境を整え40万円ぐらいでしょうか。用意したのは必要最低限で、特別なものはありません。

会社設立費用・開業諸経費

最初から株式会社としてスタートしたので、法人登記に必要な経費などですね。

2:起業前に考えていた計画~技術を確立するまで安易にサービスは展開しないと決意。まずは受託仕事で開発費・経費を稼ぐ計画。1期目の目標売上は1200万円ほど。

2009年4月に創業しましたが、まずは技術特許取得および自社サービスの企画と受託開発を並行して行っていました。起業からしばらくは特許取得開発が中心でしたので、ある程度計画通りに進んでいました。

1期目の売上目標は1200万円。これは年間経費に相当します。創業メンバー3人はそれぞれ、IT業界に長らく携わってきた技術者ですので、会社が波に乗るまでは自分の食い扶持は自分で稼ぐ、そんなスタイルでした。

自社事業で収益を得るようになったのは、3期目以降です。自社サービスの第1弾として2012年の7月にリリースしたのが、カレンダーとメーラーが一体化したアプリ「Promise Mail」です。

そして、「Promise Mail」に搭載している当社の構文解析エンジン「PM-Engine」が世界特許取を取得したのが2013年の12月。私自身はこの特許取得が実現してからが、会社がスタートだと思っています。

経費に関しての、月次での内訳としては以下になります。

●原価 2万円
●人件費 50万円
●役員報酬 40万円
●家賃等 17万円
●水道光熱費 2万円
●広告宣伝費 無し
●その他の営業諸経費 1万円

上記のような経費計画で月の支出は97万円となり、利益は3万円残ります。

原価

ITビジネスなので、他の業種での原価というのは、基本的にありません。開発で使用したサーバ代ぐらいが原価と言える部分です。

人件費

開発費は全て人件費としました。メーカーは開発が全てですから、ここがいちばんウェイトを占める部分です。実際、特許申請や技術の実現化、サービスの企画など、フル稼働です。

役員報酬

開業当時の収益はコンサルティングや受託開発が中心ですから、あまり大きな役員報酬は払えないので、このくらいにしていました。当然ですが、会社に利益が出なければここで調整するという形になります。

水道光熱費

強いてあげれば電気代が多少高めになるとは思いますが、特別何かを多く必要とする業種ではないので、通常のオフィスと同様に設定していました。

広告宣伝費

開業当初は製品を完成させることと、国際特許を取ることが先決ということで、広告宣伝はまったく想定していませんでした。

その他の営業経費

その他の経費で月1万円としまたしが、これはインターネット回線費や電話代などですね。

3:実際の1期目はどうだったか~1期目は予測していたこととはいえ、世界特許取得には思ったよりも費用がかかり、資金不足で2期目、3期目は銀行から借入。膨大な特許取得費用とプロト開発費を受託の売上でカバーしながら雌伏の時を過ごす。

私は主にITコンサルティングや各種ITサービスの販売代行、他の2人はエンジニアとして受託開発を請け負いました。スタートアップのベンチャーですが、創業メンバー自体は数多くの実績を持っていますから、大手会社はじめ、さまざまな会社さまから引き合いいただくことができました。なので、仕事自体は比較的安定しており、売上も目標通りでした。

ただ、そうはいっても、やはり開発・人件費のコスト負担は大きかったです。構文解析エンジンの構想に確信を持っていたものの、果たして国際特許が取得できるのか、はたまた本当に技術として生かせるものなのかなど、現実化が近づけば近づくほど、いろいろな不確定要素が出てきたんですね。それをひとつひとつクリアしていくことは、今振り返ってみても、非常に苦労したことです。

2期、3期に当社は銀行から借り入れを行っています。最初に500万円と、次に1500万円です。これらの資金調達は、すべて特許取得やサービス開発の進捗に必要なため行いました。技術検証と特許取得に光が見えはじめたのが2期目で、特許取得が決定し、自社サービスの開発基盤が整ったのが3期目でした。そうして、満を持してリリースしたのが、「Promise Mail」です。結局、特許から数えると、開発に至るまでに少なくとも、数千万円はかかったと思います。その間、受託案件で開発費を稼ぎ続けてくれたメンバーにはとても感謝しています。

製品がリリースされた後は、年商1億円ぐらいは固いと考えていました。でも、なかなか難しく、3期目の売上は受託開発を合わせて年商8000万円ほどです。受託を控えて自社サービスに的を絞ることができたのは4期目に入ってからですね。

「Promise Mail」の広告宣伝費用は一切かけていません。2014年の4月に企業向けのAPSやOEM サービスをリリースしたのですが、ユーザーが「日時」や「場所」といった情報を、手軽で確実にカレンダーに紐付けられる機能にご好評をいただき、実績は着々と増えていきました。特に会員登録などを行い、不特定多数のユーザーを持つ大手映画会社や流通会社、石油会社といった会社さまからご好評をいただいています。

会計処理については、1期から4期まで開業以前からご縁があった税理士の先生にお任せしていました。自社サービスを展開するようになってから事務を募集し、現在は社内スタッフが経理を行っています。

4:健全な経営を実現して生き残るためのポイント~メーカーとしての誇りを持ち、「良い」を追求する。プロダクトの作り込みに集中して余計なことに時間もコストもかけない。

会社毎によっていろいろ考えはあると思いますが、ものづくりメーカーの当社としては「良い技術、良いサービス」が第一です。それを絶えず求めていくことが、健全な経営につながると確信しています。それは実際の現場の業務にとっても、非常に合理的なことだからです。

例えば、ソフトウェアで言えば、完成されたサービスをファーストタイムでリリースできれば、バグなどの対応をしなくても済むわけです。そうすれば、余計なことに時間やコストを割く必要もない。その分、新しい事業に注力できます。また、自分たちが納得できるものをめざしていくこと自体に、ビジネスとしての成長があるのではないでしょうか。

先ほども少しお話ししましたが、当社は、特許を取得しサービスを本格化させた2014年を、本当の意味での第1期だと考えています。そして、2期にあたる今年は、事業を加速度的に進めていく年だと感じていて、さまざまなサービスのリリースやプロジェクトを推進させています。

先ほども少しお話ししましたが、当社は、特許を取得しサービスを本格化させた2014年を、本当の意味での第1期だと考えています。そして、2期にあたる今年は、事業を加速度的に進めていく年だと感じていて、さまざまなサービスのリリースやプロジェクトを推進させています。

直近では、企業サイトなどに導入していただくと、サイトを訪れたエンドユーザが、イベント登録ボタンをクリックすると、「日時」と「場所」を自動解析して、エンドユーザのGoogleカレンダーにイベント登録する「Cal Push」というサービスをリリース。これから、営業にも力を入れて積極的に展開していきたいと思っています。また、これは長期的なミッションになりますが、めざすのは「PM-Engine」による新しいインフラ構築です。「日時」・「場所」というのは、国やサービスが違っても共通するコミュニケーションです。それをデジタル管理できる「PM-Engine」を世界のインフラにしてきたい、そして過去の実績を蓄積し分析するビックデータに留まらず、予定を管理することで、未来の情報を蓄積し分析できるビックデータを提供するサービスも実現したい。今後、ウェアラブル端末しかり、ありとあらゆるデバイスが登場し、2020年までに市場規模は2000億円に達すると推測されます。それまでに各デバイスに依存しない汎用ツールとして確たるシェアを獲得していくことが目標です。

最後に、起業のアドバイスになるのかはわかりませんが、ひとつメッセージがあるとすれば、新たな価値の提案ということでしょうか。自分の会社を持ち、経営していくのはたいへんです。いま現在でも経営には四苦八苦しています(笑)。でも、世の中に今までになかった技術やサービスで事業を展開させていくことほど、やりがいを感じられることはありません。私は40歳で起業しましたが、そのやりがいがすべての原動力になっています。これを聞いて、経営の話とは感じられないかもしれません。しかし、やりがいがあるからこそ事業が進み、進むからこそビジネスが大きくなるのだと、私は確信しています。ぜひ、これから起業をめざす若い人たちには、自分自身が創出したまったく新しいサービスで、世の中という大海に大きく漕ぎ出していってもらいたいです。