外資系IT会社の営業職が、経験ゼロからITエンジニアとして独立。 受託開発から始め、自社サービスも急成長! 目指すは日本のGoogle

公開日: 2015/03/30  最終更新日: 2019/11/22

冒頭

東京大学経済学部卒業後、外資系IT会社で営業職としてキャリアを積んだ後藤暁子氏。2006年10月に、株式会社オンラインコンサルタントを設立した。

社名のとおり、当初は中小企業向けのITコンサルティングをクラウドソーシングで行うベンチャーとしてスタートしたものの業績はいまひとつ。その後、Webサイトの構築やスマートフォンアプリ受託開発に業態をシフトし、タクシー検索サービス「たくる」を2010年7月にローンチ。2012年2月には、運送業者向けにスマートフォンのGPS機能を活用した、動態管理・運行管理システム「Smart動態管理システム」をリリースした。

創業時の計画や事業が思いどおりにいかなかったと嘆く起業家は多い。今回は、起業後に業態転換を成功させた後藤氏にお話を伺った。

株式会社オンラインコンサルタント

代表 後藤 暁子 Akiko Goto

事業内容 Webシステム開発、スマートフォンアプリ開発、タクシー検索サービス運営
所在地 神奈川県横浜市

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1:事業内容
中小企業向けITコンサルティングを業態転換。位置情報を利用した運送業界向けサービスがヒット!

大学を卒業後、米国の電子・通信機器メーカーのモトローラに入社し、その後、イギリスに本社を持つセキュリティーソフトベンダーに転職。営業職として法人向けのセールスを担当していました。

会社員時代に感じたのは、日本の中小企業のITリテラシーの低さ。大企業なら専門部署を置き、選任のITエンジニアを社員として抱えられても、中小企業にはコスト的に難しい。そこで、中小企業向けのITコンサルティングを、クラウドソーシングでやろうと思いつきました。思い描いていたのは、優秀なITエンジニアが隙間時間を生かし、中小企業の問題を解決できるサービスでした。

そして、2006年に起業。資本金は300万円で、1人で自宅を事務所にしてスタートしました。ちなみに、資本金はすべて自分の貯蓄から捻出しています。

しかし、中小企業向けのITクラウドソーシング事業はうまくいきませんでした。ITリテラシーが低いということは、ITの何が課題なのかも認識できないわけです。よって、まずは何が課題かを聞きに行くのですが、それを繰り返していると時間とコストが見合わないばかりでなく、エンジニアのモチベーションも維持できませんでした。

その後、ホームページ制作の受託を始めたのですが、徐々に受託だけでは厳しいと気づき、自社サービスの開発にも着手しました。2008年には企業のコンプライアンス違反・モラルハザード防止のシステムを発表、2010年7月にはタクシー検索サービス「たくる」もローンチしました。「たくる」は2014年7月時点で9873事業者以上が登録し、アプリは1万4000以上ダウロードされています。

また、2012年2月には、スマートフォンのGPS機能を活用した、動態管理・運行管理システム「Smart動態管理システム」をリリースしました。これは運送業者・配送業者向けのサービスで、スマートフォンで手軽に運行管理ができるシステムです。同様のシステムは独自のハードウェアを利用するもので大手向けにはすでにあったのですが、とても高額で中小の運送会社が導入できるものではありませんでした。当社では月額950円という低料金で利用でき、2014年7月時点で150社に導入いただいています。お客さまはトラックを20台程度保有している中小規模の運送会社が多いですね。

ちなみに、運送業界はまだかなりIT化が遅れている業界です。一方で最近は人手不足で、物流現場は疲弊しています。そういう状況から、配送ルートの管理や車両の動きを見える化できるITサービスは大きなニーズがある。「Smart動態管理システム」はまだまだ伸びると思っています。

2:創業のプロセス・苦労したこと
自己資金の300万円でスタートするが、創業事業は失敗。受託開発のビジネスに転換するも、今度はリーマンショックの荒波に。

起業にあたっての不安や迷いはあまりなかったですね。実は有名サービスを作り、会社を上場させた友人と今でも交流があるのですが、起業家が身近だったこともその理由でしょう。また、大学のゼミは経営戦略がテーマで、いつかは経営者にというマインドが自然と醸成されていたのかもしれません。

とはいっても、最初に手がけた事業がまったくうまくいかなかったのは辛かったですね。起業前、IT化されていない中小企業向けのITクラウドソーシングサービスは、数千億円の市場規模になると計画していたのですが……。今思うと甘すぎた計画でした。

その事業がうまくいかないので売り上げは当然入ってきません。資本金は300万円だけで、運転資金の借り入れなどもしていなかったので、早晩資金が枯渇することはわかっていました。

そこで営業先からの依頼もあったので、ホームページ制作の仕事を受け始め、私もエンジニアとして手を動かしました。実は外資系IT会社での仕事は営業だったので、ITエンジニアとしてのスキルは素人同然。でも、やらないとお金になりませんから、簡単なCGIをつくる勉強から始めました。

ホームページ制作やシステム開発の仕事は思ったより順調に伸びて、創業半年後にはスタッフが1人増えて、さらに次々と人材を採用して2007年には6名の体制になりました。

ところが、ここでリーマンショックが……。ここで一気に仕事が減って、単価も下がって、かなり苦しい状況に。親や親戚から資金を借り、社長である私の給与も会社に貸し付けるかたちで資金をつないで、なんとか資金繰りをしていたほどです。

この時期はとにかく既存のお客さまを大事にして、既存のお客さまからのニーズを掘り起こすことに専念していました。そして、受託だけでは厳しいとわかったので、自社サービスの開発を始めることにしたのです。

そのなかで生まれたのが「たくる」というタクシー検索サービスです。これはたまたまだったのですが、自分の経験がもとになっています。私自身が前からタクシーを探せるアプリが欲しいと思っていたんですよ。

また、運送業をやっていたクライアントからの相談をきっかけに、「Smart動態管理システム」をリリース。2012年2月にスタートして、今では150社に導入いただいています。

こうして、受託と自社サービスからの収益、さらに顧客のITシステムのサポート業務なども受託し、バランスよく売り上げが入るようになり、経営はかなり安定しました。現在は、受託が5割、自社サービスからの収益が3割、運用など残りで2割といったバランスです。

3:お金と計画に関する考え方
創業後3年間は会計ソフトで自計化。決算も自分で処理して経費を節約

会計処理ソフトは、創業時からずっと弥生会計を利用しています。あと弥生販売というソフトも。弥生販売は請求書の発行や売り上げ・顧客管理に利用していました。これはとても便利でしたね。

弥生製品を選んだのは、起業していた友人から勧められたからです。開業して3年目までは自分でソフトを使って記帳からすべてやっていました。4年目以降は、顧問税理士にすべてお願いしていますが、最初の3年間は売り上げ的にも苦しかったし、常に数字が頭に入っていないと不安でしたので、自計化していてよかったと思います。

実は私は会計業務というのは割と苦手で(笑)。システムをつくるのはクリエイティブで楽しいのですが、こつこつと領収書を確認して登録するというのは辛い仕事でしたね。

とはいっても、ITビジネスは他業種に比べて仕訳自体も簡単です。決算も自分で行いました。会計ソフトを使ってちゃんと記帳していれば、決算も税務署に行って相談すれば無料で行えます。決算って専門家でないとできないと思っている方も多いかと思いますが、頑張れば自分でできます。専門家に頼むと10万円以上はしますから、最初は自分でやったほうが勉強になるし、よいと思いますよ。

今は本業に専念するため、会計処理は税理士さんに依頼していますが、四半期ごとに試算表をつくって貰って、数字を管理しています。

事業計画については、毎年つくり直しています。きちんと売り上げ見込み、経費などを見通して経営計画に落とし込んでいます。あと、つい先日、「14年計画」も策定しました。当社の目標はgoogleのような会社になることです。とても大きな夢ですが、それを達成するのは何年かかるかを逆算したところ、14年はかかるということで、それまでの経営計画を立ててみました。一緒に働く仲間から「目標を本気で実現するなら、もっと将来までの計画をつくりましょう」と言われたのがキッカケです。

創業時に思い描いていた計画は、正直なところ夢物語というか、今から思い返すと見込みが甘すぎて恥ずかしいかぎりです。でも、創業して8年経過し、会社もそれなりに安定してきたので、改めてチャレンジしていくためにも、14年計画をもとに、大きな挑戦をしていきたいと考えています。

4:これから起業する方へのメッセージ

今振り返って思うことは、事業計画を甘く考えていたということ。創業時の事業がうまくいかなくて苦労しましたが、もっと資金をたくさん用意して、事業計画をもっとシビアに、しっかり練ってスタートすればよかったと思います。あとは起業前にできる準備はできるだけしておくことも大事です。パンフとか名刺、ホームページなどの準備は起業前でもできます。特に名刺やパンフなどは営業ツールですから、適当につくると後悔します。名刺一つとっても、適当につくったペラペラの名刺ではなくて、一目で自社のサービスが伝わって覚えてもらうような名刺にすべきです。

当社の目標はGoogleです。今はまだ小さなベンチャーですが、いずれは世界中で使われるサービスをつくり上げたいと考えています。

起業したのは、自分の考えたサービスが通用するかどうか試したかったこともありますが、もう一つの理由としては、日本のIT業界の現状を変えたいという思いです。私は外資系にいたので特にそう感じたのかもしれませんが、日本のIT業界は俗にいう3K的な職場です。みんな朝から晩まで働いて、時には休日やプライベートも犠牲にして……。

私が勤めていた会社では、ITエンジニアが生き生きと仕事をしていました。そこで、日本にもITエンジニアが自由に生き生きと働ける会社をつくりたいと思うようになったのです。そうした会社のひとつの理想形がGoogleだと思っています。

2014年2月に、Facebookの情報を元にプレゼントを贈りたい相手の好きな物をamazonと楽天からキュレーションしてくれるiPhoneアプリ「True Gift」をリリースしました。また、今後はウエアラブル端末などが伸びると思いますので、そうした領域でも事業展開を進めたいですね。