全国でも珍しい気仙沼の地域資源である椿オイルを全面導入したカウンセリングエステ「サロン・デ・ラピーズ」

公開日: 2015/03/30  最終更新日: 2019/11/22

Salon de Rapillseサロン・デ・ラピーズ

代表 齊藤 夏帆 Saito Natsuho

事業内容 エステ・ネイルサロン
所在地 宮城県気仙沼市神山 12-18 2F
事業計画書の安全率 6.11
(166位/1万位中)

上記の安全率は取材時に伺った数値をもとに事務局にて試算したものだが、マッサージ・整体・リフレ業で健全企業の平均安全率は4.53に対して、6.11と高い数字となった。ポイントは経費の割合。実家の一部を改装して店舗としたことで家賃負担が低く、開業資金も少額で済んだことで手元資金に余力があることが大きい。大島産の椿オイルを使用することで原材料費は高めになるが、その分を低い固定費がカバーすることで、プラスのキャッシュフローを実現し、結果として高い安全率となった。固定費は極力下げつつ、高い原価率も売上に変動して上下するだけなので、常に余裕のあるキャッシュフローになり健全な経営を実現している。.76だが、それよりずっと高い数字になっているが、そのポイントは2つ。1つは原価率の低さによる粗利益率の高さと、もう一つはデザイン制作などの受託仕事の利益が大きい事。それにより創業初期のキャッシュフローがとてもよく高い安全率を実現している。原価率を抑えて、かつ複数のビジネスを持つことでリスクヘッジするなどは健全経営のコツとも言えるだろう。

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冒頭

宮城県気仙沼市に2012年5月にオープンした、カウンセリングエステ・ネイルサロン「サロン・デ・ラピーズ」。このサロンの特徴は、地域密着型。普段着で気兼ねなく立ち寄れる料金設定や、地元産の椿オイルをエステのトリートメントに導入している。

一般的に肌によいとされているオリーブオイルでもオレイン酸含有量が70%程度のところ、気仙沼産の椿オイルは87%を誇る(椿屋食品調べ)。一般的な椿オイルでも80%程度に留まるため、地域に埋もれていた資源の活用にもつながっている。

オーナーは同市出身の齊藤夏帆氏。学生時代から、将来的には地元での独立開業を目指していたが、転機は突然訪れた。美容専門学校を卒業し、就職して2年目で東日本大震災が起きたのだ。今回は代表を務める齊藤氏に、事業計画をテーマとしたお話しを伺った。

1:事業内容
エステからネイルまで、女性に癒しを提供するサロンを運営。リピートしやすい料金設定ながらも、高付加価値の地元産椿オイルを導入し、地域資源の再発掘にも取り組む。

当サロンでは、エステとネイル、化粧品の販売代理事業を行っています。お客様が気兼ねなくお越しいただけるような料金設定や、普段着でもお越しいただけるようなリラックスできる雰囲気づくりに努めています。2012年5月11日にオープンして以来、エステとネイルとあわせて、10代から80代の幅広い世代の方にお越しいただいており、現在はざっと100名ほどのお客様がお得意様です。

エステではお客様のその時の状態を丁寧にお伺いして、最適なトリートメントメニューをご提供しています。フェイシャル、ボディ、ブライダルのほか、ベリータッチもとりいれています。ベリータッチとはタオルの上から小腸・大腸を刺激し、腸の働きを活性化させることにより、自律神経やホルモンのバランスを整え、免疫力を高めていくトリートメントのことです。

エステのトリートメントでは、一般的にホホバオイルやブレンドされたオイルを使用しますが、当サロンでは気仙沼の離島である大島産の椿オイルを使っています。椿オイルは昔からヘアケアなど美容に使われてきました。保湿力も高いですし、オレイン酸が豊富に含まれています。オレイン酸は、人の肌を守る皮脂の成分ですので、エステのトリートメントにも適しています。

気仙沼のものは北限の椿としても有名ですが、調べてみると、一般的な椿オイルよりもオレイン酸含有量が高く87%もありました(椿屋食品調べ)。肌にもよいとされるオリーブオイルで70%程度なので、気仙沼産の椿オイルがいかに優れているか分かります。

椿オイルは、通常サロンで使用するホホバオイルやブレンドオイルと比較して、原価が5倍以上します。オイルの種類によっては同じ1Lでも、椿オイルの10分の1以下で購入できるものもあるほど、高価なオイルです。オプションで椿オイルに変更できるというサロンもありますが、当サロンのようにすべてのエステメニューに導入しているところは全国的にも珍しいほうだと思います。

お客様の肌の状態でも変わってきますが、トリートメントオイルは通常、全身のトリートメントで30mlという目安があります。オイルの量が少なすぎてもお客様の肌を傷つけますし、多すぎてもトリートメント中にきちんと筋肉を掴めなかったり、すべて拭き取れなくてお客様のお洋服が汚れてしまったり、その後滑ってケガをされる可能性もあります。

椿オイルの導入で原価はあがりましたが、お客様の肌にしっかりと浸透させて、尚かつ多すぎて余らない適量を独自に研究しました。おかげで、原価が高くても料金設定にそれほど影響を与えずに済みました。

2:創業のプロセス・苦労したこと
ハンドトリートメントのボランティア経験から、独立するなら今だと決意。気仙沼信用金庫とプラネットファイナンスが運営する「三陸復興トモダチ基金」を活用して開業。

私の実家は、祖母の代から着物の悉皆屋を営んでいます。女性が技術や知識を身につけ、独立して働くという環境に、小さい頃から接してきたので、自然と私もそうなりたいと思っていました。よく店の隅っこで、きれいな着物のはぎれで小物を作って遊んだりしていましたね。その頃からおしゃれすることやきれいなものに憧れがあったので、高校卒業後は美容の専門学校に進学し、エステとネイルの技術を身につけることにしました。

いつかは地元の気仙沼で独立開業しようと考えていたので、経験を積むために、宮城県大崎市にある美容室と併設のエステサロンに就職しました。そこではエステ部門を任されており、メニュー開発やキャンペーン企画などの裏方の仕事もひととおり担当することができ、とてもいい経験をさせてもらっていました。就職2年目という時に東日本大震災が起きました。就職先も被災したため仕事が出来る状態ではなく解雇となりました。また、実家も被災して大変な状態でしたので、まずは実家を手伝おうと気仙沼に戻りました。

独立へのきっかけは、避難所にエステのボランティアに行ったことです。2011年5月の連休に、お世話になった専門学校の先生が、支援物資のほかにトリートメントに必要なオイルとタオルを携えて、避難所のボランティアへ行こうと誘ってくださいました。ずっと、何かしたいとは思いながらも、なかなかひとりでは動けずにいたので、思いきって同行しました。

避難所ではハンドトリートメントをしたのですが、施術したある高齢の女性との出来事がターニングポイントになりました。その方は、自分よりも辛い人がいるからと、それまで誰にも話せなかったご自身の体験を語ってくださいました。最後には「なんだか心が軽くなったわ、ありがとう。」と涙を流してお礼を言われました。

技術ももちろん必要ですが、お話を聞くだけでも癒しにつながることを、身をもって経験した鮮烈な出来事でした。これを機に、当初よりももっと早く独立することを考え始めましたが、自己資金が約100万円と少なく、どうすべきか悩みました。サロン運営では、ランニングコストはそれほどかかりませんが、トリートメントオイルやジェルネイルなどの商品仕入れや美容器具、備品の調達のため初期費用がかなりかかります。

そんな時、あるイベントで地元のNPOの方に、気仙沼信用金庫で募集していた、「三陸復興トモダチ基金」という創業補助金について教えてもらいました。新しく始める事業の初期費用のうち50%以内、限度額 150 万円を助成してくださるというものです。

この創業補助金のことを知ったのは2011年の年末でした。パソコンもなかったので、申請書は手書きしました。経営者として先輩の母にも助言を受けて、事業計画書や申請書を書き上げました。初めてのことだらけで苦労しましたが、熱意だけは伝えることができたと思っています。

3:お金に関する考え方
初めての確定申告で苦労してからは、自前の帳簿と会計ソフトを活用。

サロンを開業するにあたっては、実家の2階を一部改装することで場所を確保できたので、開業費と固定費が抑えられました。家賃や駐車場代は払っていますが、それでも市内で事業所用物件を借りるとなると、家賃、駐車場代、光熱費等を合わせて10万円以上はかかるので、その負担を考えると恵まれた条件だと思っています。

初めての確定申告は何もわからずかなり苦労しました。サロンのベッドの減価償却は何年であるとか、業種特有のことは知人のサロン経営者に教えてもらいつつ、自分でも仕訳について勉強して、請求書や領収書の類を大まかに分けました。そのうえで、最終的には税務署の方に相談にのってもらいながら申告しました。

2年目の確定申告はもう少しスムーズに済ませたいと思い、1年目の申告を終えたその足で、すぐに会計ソフトを買いに行きました。母の会社で「弥生」を使っていたこともあり、私も迷うことなく「弥生」を購入しました。

普段の帳簿付けは、予約表をカスタマイズしたエクセルをベースにしていて、定期的に弥生に入力する方法をとっています。弥生には便利な機能もあるので、もう少し勉強して、これからどんどん使いこなしていきたいですね。

当サロンは2012年5月に開業して2年が経過しましたが、おかげさまでお得意様も100名まで増え、経営は比較的順調です。今回取材して頂いたドリームゲートさんのように、独立開業に必要な情報は、ネットで調べると簡単に無料で手に入る時代です。

開業計画NAVIの事業計画書作成ツールなどは、私のようなITが得意でない人でも簡単に事業計画書の数字が作れて、すごく便利ですし参考になります。また、会計ソフトも素人の私が使えるくらい便利になっていると思います。

4:これから起業する方へのメッセージ

私が開業を決意したのは震災がきっかけでしたが、お金や経験、知識がなくても、周囲の力を借りてなんとかスタートできました。

サロン・デ・ラピーズは、自分へのご褒美としてたまに来ていただける高額なサロンではなく、月に一度、自分のメンテナンスのために長く通っていただけるサロンを目指しました。メニュー内容と料金設定については、相場の範囲で、自分がお客様だったらいくら払えるかを常に考えて設定しています。

エステサロンの運営原価は1-2割と言われていますが、かといって売上や利益ばかりにとらわれてしまうと、自分もお客様も長く続けられないのではないかと思います。私もそうですが、ひとりで運営している場合は、自分の体だけが資本です。施術者である自分の心と体もケアしながら、お客様にリラクゼーションを提供していきたいと考えています。

運営においては、キャンペーンの頻度や回数には気をつけたほうがよいと思います。オープニングや何周年記念といった一過性のイベントであればよいのですが、値引きのキャンペーンを定期的に実施してしまうと、その時期しかお客様がこなくなってしまう可能性があるので、安易な値引きは避けるべきです。

その代わり、トリートメント時間を10分おまけするとか、サービスでの付加価値でお客様に支持していただくほうがよいと思います。私としては、お客様からいただいた利益は、自分の知識・技術の向上に投資して、お客様には施術でお返ししていけるよう努力をしていきたいですね。