枕、寝具専門のネットショップで年商6億。在庫ゼロのシステマチック経営。

公開日: 2015/03/30  最終更新日: 2020/04/23

冒頭

前職はビックカメラの店員という河元氏。友人と二人で始めた「まくら」のネットショップ、10年目となる今期は売上6億9000万を見込むという。営業マンは一人もいなく、現在テスト開発で実験稼働させている秘密のシステムにより、在庫がほぼゼロ(平均在庫日数が4日分)という超効率的でシステマチックな経営を実現している同社。その秘訣を伺ってきた。

1:当社の事業内容
高校時代の同級生とはじめた「まくら」のネットショップ。枕、寝具を中心に35000商品を18のネットショップ店舗を運営。

当社は枕や寝具などを中心に扱うネットショップです。卸売り自社製品を企画・製造して販売もしていますが、メインはネットショップ。売上は一日で300~500点ほど。年間にすると前期の売上は5億5000万ほど。今期は6億9000万円ほどの見込みです。

当社は受注から仕入・発送まで一貫したシスムテを自社開発しています。毎朝、前日に売れた商品をチェックして、在庫がないものは自動的に各社にFAXやメールで発注をかけるようになっています。この業務はほんの数分で終わるようマニュアル化されてますから、極端な話、入ったばかりのアルバイトでも出来ると思いますよ(笑)。

さらに、これまでの販売データを分析して、事前に売れそうな商品を予測して発注をかけるシステムも開発中でテスト稼働させています。これが出来上がると、注文が入った時点ですぐに発送ができるようになりますから、お客様を待たせずに商品がお届けできます。

amazonのような巨大ECは大量の在庫を抱えて、センターに蓄えている形式だと思いますが、当社のような規模の小さい会社がそれを行うと資金的にも苦しいので、在庫は極力抱えないようにしています。当社の配送センターは我孫子にありますが、平均して4日分の在庫しか抱えていません。このシステムの詳細は企業秘密なのでお教えできませんが、ビックデータを活用した新しい経営戦略といえます。大企業ならすでに行っているかもしれませんが、当社のようなベンチャーでもこうしたシステムを持てるのは、近年のIT技術の進化やITコストの劇的な低下によるものでしょう。ビックデータといっても、今のサーバのパワーから見ると解析処理に時間もコストもさほどかかりませんから。

こうした取り組みにより、当社には営業マンはいません。広告宣伝費もほぼゼロ。SEO対策と自社開発のシステムによる販売力が強みです。SEOについては、一般的なSEO業者より当社のほうがノウハウがあると自負しています。そもそもSEOが強ければ、売れるネットショップはすぐ作れると思いますから、SEO業者も本当に実力があれば自分たちでやっていると思うんですよね。

2013年3月の時点で、当社には28名のスタッフがいます。システムはすべて社内開発で、120種類ほどのツール・システムが稼働しています。たとえば、入口のパネルに来訪予定の方のお名前と会議室が表示されています。これも自社開発のツールの一つで、社内で使っている会議室管理システムに連動した来客管理システムになっています。

プログラマーは社員がまだ10名未満だったころから選任でおいています。経理の専任スタッフよりもプログラマーを優先して採用したくらい、システム開発には力を入れてます。

2:創業プロセス・苦労したこと
自己資金10万円でスタート。半年後に取り込み詐欺で倒産の危機。

もともと私はビックカメラで携帯電話売り場を担当していたので、ITやネットショップについては素人です。まして「まくら」については何もわからない状態でした。

「まくら」を売ろうと思ったのは、当社のサイトにもその経緯を小説ノベル風にご紹介していますが、新しい枕を買ったものの全然体にあわなくて、古くて捨ててしまった愛用の枕を取り戻そうと探し回ったけど、結局取り戻せなかった…というがきっかけです。

枕の相性ってとても大事だと思うですよ。あわないと本当に眠れない。人間工学的に設計された高機能な枕なども、結局は合う・合わないというのは、個人によって違います。体型や好みは人それぞれですから。

そういう訳で、高校時代の同級生を誘って起業しました。「まくら」をネットで手軽に買えて、気に入らなかったら返品可能で、自分に合う枕に出会うまで何度もお試しできる…そうしたコンセプトでネットショップを始めました。

2004年4月に会社を立ち上げました。資本金は1円。開業資金は10万円でした。売れたら入金があるので、それでまた仕入代金に充てて・・・ということで、運転資金はギリギリでもなんとか回せてましたが、開業して半年ほどたったある日、120万円ほどの取り込み詐欺にあいました。FAX一枚の注文書を信用して商品を送ってしまって、入金がなかったんですね。与信管理も何もしてなかったわけです。120万円の穴は非常に痛手で、これで倒産すると思いました。

急いで銀行に行って「取り込み詐欺にあったので、運転資金がない。120万円貸してほしい」とお願いにいきましたが、当然ですが借りれませんでした。普通は事業計画書や決算書、売上の予算など返せる見込みがあるということを説明する資料をもっていかなければ、お金を貸してもらえません。担保になるものもなかったので、銀行からの借り入れは断念。他の手段で金策に走り回ってなんとか乗り越えましたが、この時の苦い経験から、今の経営方針が出来たともいえます。

もう一つ経営の危機としては、開業して間もない頃、取引のあった工場がなくなりそうになったことがありました。その工場の経営者が高齢で、跡継ぎもいないので廃業すると言い出したのです。枕の製造や商品の仕入れなどでもお世話になったので、そこが廃業するとなると相当な痛手になります。

そこで、一緒に起業した当時の専務が、御社の後を継いで社長をやりますと提案したのです。その話しはうまくいって、彼は今もその会社の社長をしています。資本関係はありませんが、兄弟会社のようなものですね。販売は当社、商品の仕入れや製造はその工場という両輪体制になっています。

3:成長の軌跡
取り込み詐欺をきっかけに始めた「持たない経営」が大成功。無借金の筋肉質経営へ

当社の経営方針としては「在庫を持たない」「借入もしない」「大口の商談はしない」というものです。ひたすらネットから買っていただける一人ひとりのお客様を大事にして、小口の注文をいかに積み上げられるとういうことにこだわっています。

現在は18店舗を構えていますが、店舗は常にスクラップアンドビルドで増えたり減ったりしています。楽天に5店舗、Yahooショップに5店舗、ビッターズに1店舗、残り7店舗は自社サイトです。

自社サイトの店舗だと「抱き枕.com」や「毛布.jp」など、いろいろ展開していますが、店舗個別に採算を計算して、4か月連続で赤字になった店舗はつぶしてます。すべての店舗が黒字であれば、当然経営は安定します。そうすると優良な店舗だけが残ります。そうした残った優良店舗がお客様を連れてきてくれるため、集客コストがかからないという仕組みです。

こうして浮いたコストの分、当社は丁寧な顧客にコストをかけるようにしています。商品の出荷を内製化、ラッピングも自分たちでしたり、フリーダイヤルのお客さまセンターを設置したり、とにかく、1人1人のお客さまに対して密に接して、接客をするようにしています。ネットショップでも「接客」というのは重要ですね。

ちなみに、店舗と呼んでいるWebサイトですが、例えば「抱き枕.com」というサイトも当社が運営している店舗の一つですが、「抱き枕」で検索するとGoogleで2位に出てきます。こうしたビックキーワード毎に店舗を運営しています。

まくらなどの寝具関連のキーワードで検索すると、Yahooなどに出している当社の商品ページや自社サイトが上位10位以内にいくつもで来るので、ユーザーがどこから入っても当社の店舗に誘導されて、購入するという流れになっています。ネットでは寝具関連のメーカーや大手家具量販店との競争を行ってますが、当社は徹底したSEO対策で、ほぼ上位を独占しているのが強みですね。

枕をはじめとした寝具は、原価率が50%程度と小売りとしては高い利益が取れる商材です。枕や布団などの寝具は嵩張るので、小売店・量販店で買っても車で持ち帰るしかないですよね。もしくは配送を依頼するとか。そうすると、配送料がかかるネットで買うのとかわらないコストになるので、ネットショップに向いている商品ですね。

また、商品自体が大きいわりに、そうそう頻繁に売れるものではないので、百貨店などでは置きたがらない商品の一つです。回転率が悪いですから。どこも寝具関連の売り場は小さくしていると思いますし、なかには取扱いをしていないところ出てきていると思います。そうした流れも当社としては追い風です。

また、寝具というのは肌に触れるので、高付加価値な商品が売れる傾向にあります。枕だと5000円や1万円の商品は普通に売れますが、クッションになった途端、2~3千円とか、数百円といった低単価になります。枕もクッションも製造的にはあまり変わりがないですよね。それなのに売れる価格帯が全然違うのも、この商材の面白さの一つです。

あとは枕カバーなどの付属品もポイントです。枕のサイズにピッタリ合うカバーなどは、枕を売った店から買うのが一番。なので、枕を売ればカバーも売れる。カバーは汚れるので取り換え用な何枚も買いますしも、デザインにバリエーションを持たせれば、さらにたくさんうれます。抱き枕などはその傾向は顕著ですよね。なので、枕カバーの販売にも力を入れています。

4:お金に関する考え方
始めから自分で会計を管理。月次で決算も当たり前です。

会計に関しては開業時から自分で会計ソフトを使っています。毎月、店舗毎の採算を見て経営判断をしていますので、月次決算も当然行っています。小売業は常にお金が入ってくるビジネスですが、在庫を極力減らして効率よく資金を使うためには、常に仕入資金の管理・把握が必要です。

小売業の経営では、常に緊張感を持って経営していかないと、すぐ行き詰ります。取り込み詐欺のようなトラブルに遭遇すれば尚のことですね。資金を効率よく回して経営していくためには、自分たちできちんと会計を管理していくというのは非常に重要ですね。

ネットショップの事業計画書のサンプルを見る

※この計画はインタビュー時の内容を元に構成したもので、実際の経営上の数字とは異なります。

開業計画サポートツールについて・・・

開業時に立てていた計画は、正直あまり作りこんでなかったのは反省点です。取り込み詐欺にあったときも、銀行に出せる事業計画書がなかったので資金が借りられませんでしたから、計画書を作っておくのはリスクヘッジとしても大事ですね。また、当社は無借金経営ですが、手元に資金的余裕があるに越したことはありません。10万円でスタートしてなんとかなりましたが、もう少し自己資金があれば楽だったなあと思います。事業計画サポートツールというのは、簡単に使えてざっとシミュレートするのには良いですね。

5:メッセージ
まくらダントツ計画。まくらで日本一を目指す。いずれは寝具分野で世界進出。

当社の経営目標をまとめた「まくらダントツ計画」というのがあります。通常業務はほっといても済みますから、社長としては経営理念や今後の計画を考えて形にして社員に伝えるのが仕事だと思っています。

まくらダントツ計画は、まくらで日本一を目指すというものです。枕の販売・取扱額で日本最大の会社になるというのが目標。

さらに、世界進出もできればと思います。寝具で世界にうって出ているところはまだないと思います。有名なのはスウェーデンの「テンピュール」ですが、ああいったブランドを作って世界に進出するのが夢ですね。

今でも実は毎日数件ですが、日本国外から注文があります。日本の商品に対する世界のイメージというのはとても高いんですよね。品質、衛生面、こだわり、機能性…。日本製品は世界で戦えるブランドの下地として、すごい潜在力があると思います。服飾品でいえばユニクロが世界的なブランドを目指して展開していますよね。ああいう会社になりたいと思っています。

これから起業する方は、日本発信で日本ブランドを生かしたビジネスを考えられると良いと思います。日本はビジネスをする環境としては、とても恵まれています。

起業するには、とにかく動くこと。あれやこれや準備ばかりで動かないよりも、まずは第一歩を踏み出すこと。私もたくさん失敗しましたが、とにかくまずは動くこと。

社員にもよく言うのですが、港を出航する前に何でもかんでも船に積み込んでは沈んでしまう。まずは身軽なまま出航してみて、どこまでいけるか試す。ダメなら引き返して、もう一度トライする。今度は前より遠くまで行けた。そうしたトライの連続から学ぶことが、成功への近道だと思います。