フリーランスのデザイナーが一人でおもちゃメーカーを立ち上げた~「オインクゲームズ」

公開日: 2015/03/19  最終更新日: 2019/11/22

冒頭

今回取材に訪れたオインクゲームズ社は、代々木上原の閑静な住宅街な住宅街にあった。もともとフリーランスのゲームデザイナーとして家庭用ゲームを作っていた佐々木氏が立ち上げた、日本では珍しいカードゲーム、ボードゲームのメーカーだ。日本ボードゲーム大賞2012では日本人唯一の7位入賞と、ゲーム好きの間で注目を集めている会社。ソーシャルゲーム全盛のなか、紙で作ったゲームにこだわる佐々木氏。実はたった一人で立ち上げた「おもちゃメーカー」である。

ITでの起業は珍しくないが、リアルな製品を製造・販売するという道を選んだ佐々木氏に、メーカーを立ち上げた理由や苦労話しを伺ってきた。

1:当社の事業内容
オリジナルのカードゲーム、ボードゲームの企画・製造・販売を手掛けるベンチャー

日本では珍しいボートゲーム、カードゲームの企画・製造を手がけるベンチャーです。

僕はもともとフリーランスのゲームデザイナーとして、家庭用ゲームのゲームデザイン・企画の仕事を主にしてきました。ほかには粘土で作ったコマ取りのアニメやなども手がけています。

カードゲームを作ろうと思ったのは、単にカードゲームが好きだから(笑)。最初は個人事業として取り組んでいました。デザインの仕事とカードゲーム作りの仕事もわけていたのですが、二束のわらじがだんだん大変になってきて、会社にしたほうがいろいろと楽だったので起業しました。

最初はゲームの売上げはまったくありませんから、デザインの仕事の売上げで食いつないでいた状態ですね。今はゲームもだいぶ売れるようになって、在庫の保管場所として現在の事務所も契約しました。

カードゲームの製品化までには、アイデア・企画を考え出してからデザインをし、製造を依頼して納品されるまで、大体3~4ヶ月はかかります。製造にかかるコストも生産数によりますが、最低でも数十万~100万円はかかります。そもそも市場が小さく大量には売れないので、生産数を増やせく、単価も高くなってしまいます。生産数を見誤ると在庫の山ができますから大変です。

オインクゲームズの場合は、販売先も自社で開拓して卸を通さないので、原価率は7割程度とかなり高いです。それでも、売値は2~3000円くらいになります。

だいたい、今はひとつの製品を500~数千個を生産して売る感じですね。現在までに9種類のゲームを開発・販売していますが、そのうち2つは自社在庫分を完売して店頭に残っているだけなので、正式にラインにあるのは7種類です。会社は私とスタッフ3名という小さい所帯なので、あまり大量の在庫は抱えられませんし、大勝負もできませんので、こつこつとやっています。

日本は家庭用ゲームや最近ではモバイル端末のゲームで世界の最先端を進んでいて、巨大な市場がありますが、意外にも日本はボードゲートやカードゲームについてとても弱い。欧米メーカーの製品がほとんどなので、その中で日本人が、それも大きな玩具メーカーではなく個人で立ち上げたベンチャーの製品ということで、注目されるようになりました。とくに日本ボートゲーム大賞2012で「藪の中」というゲームが7位に入賞したのは大きいですね。日本人としては唯一の10位入賞です。このおかけで、この界隈では名前を知られるようになりました。

現在までに出したゲームのうち、2つは世界的に有名なドイツ人作家のライナー・クニツィア氏のゲームをローカライズして出したものです。また、外部のゲーム作家さんの作品も製品化しています。

まだゲームだけでは会社としては厳しいので、受託でゲーム制作や、グラフィックデザインの仕事も請けています。収支はトントンといったところですね。

2:創業プロセス・苦労したこと
製造から販売まで手がけるので計画と管理が重要。ひとつ間違えば命取り。

2010年5月に資本金100万円で起業したのですが、それは個人で作っていたゲームを売り出したいということで法人設立しました。それが最初の製品「STRAY THIEVES」というゲームです。

これは・・・正直、生産数を見誤りまして(苦笑)、最近になってようやく完売したところです。

その年はさらに2つのゲームを販売しました。最初のゲームの売上げの反省から、2つの製品は慎重に生産数を考えて売り出しました。

ひとつのゲームを作るのに100万近くかかりますから、無計画だとお金はあっという間になくなってしまいます。デザイナーとしての収入があったのでなんとかやりくりできましたが、かなり厳しかったですね。

あと、すでに結婚して子供も2人いたので、あまり冒険もできないというのもありました。フリーランス時代に知り合って結婚した奥さんなので、仕事には理解がありましたが、家族を路頭に迷わせるわけにもいかないので、あまり無茶はできないですね。

会社の立ち上げには、とにかくコストをかけないようにしました。登記場所は自宅。会社設立の手続きも全部自分でやりましたので、費用は印紙代と税金だけでした。実は会社を作るまでそういった知識が一切ありませんでした。資本金に税金がかかることすら知りませんでしたから(笑)。

それでも、フリーランス時代に確定申告でお世話になっていた税理士の先生に、起業前からいろいろと相談にのってもらっていたので、なんとかなりました。その税理士の先生は、現在顧問になってもらっています。

2011年からはデザイナーとしての売上げも会社に合算して、2012年4月に今の代々木上原の事務所に拠点を構えました。スタッフもエンジニア2名と経理を担当してくれるスタッフの計3名になりました。

上原の事務所は25平米くらいで、家賃は15万円ほどです。震災後に景気が冷え込んだ時期なので、事務所の契約は有利でした。保証金や敷金などは家賃の4ヶ月分程度でした。あの当時、あえて新しいオフィスを借りようとする人は珍しかったと思います。パソコンなどの機材はもともと使っていたものがあるので、それを持ち込みました。買ったのは机くらいで、あとは貰い物ですね。当時、仕事をしていたゲーム会社がオフィスを移転したので、そのときにいらなくなったものを貰ったんですよ。

4:お金に関する考え方
生産管理を徹底。会計は専任スタッフを雇う。

経理専任スタッフもいれて、製造にかかる経費を徹底して抑える・・・

自分たちで細かくお金を管理することで、とにかくコストを抑えて生産できています。高い原価率でも、とにかく経費を抑えて購入しやすい売値にしています。

経理のスタッフを入れているのは、生産管理で細かい数字の管理が必要になるので、専任でやってもらうようにしました。フルタイムではなく週2~3回だけ来てもらっていますが、帳簿や売上げなどの管理をしてもらっています。税理士の先生には決算時の処理や経営指南役としてかかわってもらって、仕訳や記帳は自分たちでやっています。

ウチの製品は卸しを通さないで形式なので、売値に対して原価率は7割とかなり高いです。一般的な流通に乗せると、原価率は5割ぐらいでしょう。

製造も当然、自社管理で細かくやっています。どこかの会社に一括して委託すれば楽でしょうが、その分コストに跳ね返るので売値が高くなってしまうので。原材料などは海外から仕入れたりしています。封入なども自分たちでやっています。販路も自社で開拓していたり、ネットで直販しているので、なんとかやっていけます。最近は会計ツールなども便利なものがそろっているので、海外との取引や販路などもネットを活用すれば安くできるので、ベンチャー企業でもメーカーとしてやっていけるようになったと思います。

震災を契機に本腰で。事業計画書も作り込んで制度融資を獲得・・・

ちなみに、2012年4月に代々木上原に拠点を構えたのは、東日本大震災がきっかけです。あの悲劇がきっかけでいろいろと考えるようになって、本当にやりたいことに人生をかけてやってみようと思いました。ちゃんと拠点を構えて会社としてやっていこうと決心がついたのだと思います。

ちょうど3期目だったのですが、運転資金も制度融資を利用して低金利で某都市銀行から300万ほど借りました。制度融資自体をそれまで知らなかったのですが、税理士の先生に教えてもらいました。

1期、2期目の決算書はもちろん、事業計画書も作りこんで融資を申し込みました。作ったゲームの販売数が最悪のケースになった場合も計画書に盛り込んで提出しました。

受託仕事があるので、会社の売上げはある程度は担保されていますが、それでもワーストケースまで見通した計画書だったのが評価されてか、融資は成功しました。

2012年は製品を4つ出したので、まとまった運転資金が借りられたのは大きいですね。

小売業の事業計画書のサンプルを見る

※この計画はインタビュー時の内容を元に構成したもので、実際の経営上の数字とは異なります。

開業計画サポートツールについて・・・

融資を申し込む際に事業計画書を作ったのですが、表計算ソフトでこつこつと数字を計算してやっていましたが、それまで事業計画書をつくった経験がなく大変でした。こういうテンプレートがあるのを知っていたらもっと楽につくれたかもしれませんね。

5:メッセージ
事業として重要なのはアイデアではなくて、いかに売上げを上げるか

実はサラリーマン勤めをしたことなく、いきなりクリエイターとして仕事をはじめたので、最初はとにかく知らないことばかりで苦労しました。

名刺の渡し方、電話のとり方、ビジネスメールの書き方…。そうしたことは、会社に入って最初に教えてもらうことですが、そうした研修なり教育を受けられるのはとても大事ですし、幸せな環境だと思います。

起業するのであれば、そうしたビジネスの基礎知識・体力をちゃんと身につけてからのほうが絶対に良いです。あとは本業があってもやりたいことはできます。私の場合もそうでしたから、まずは副業的にはじめてみて、見通しがたってから起業というのはリスクヘッジとしては有効だと思います。

あと、よく取材で「どうやってアイデアを思いつくのですが」と聞かれるのですが、起業したい、自分でビジネスをしたいという方は、アイデアなんて次々と溢れてくるタイプが多いでしょう。

事業として重要なのはアイデアではなくて、いかに売上げを上げるかです。売上げを上げることは本当に大変ですから、そこに意識を集中すべきですね。