元研究者・技術者の作った自転車屋。東京のど真ん中で狙うは通勤族!?

公開日: 2015/03/19  最終更新日: 2019/11/22

株式会社アヴェロ

代表取締役 齋藤 純一 Saito Junichi

事業内容 小売店
所在地 東京都中央区東日本橋
売上高 約2000万円
事業計画書の安全率 3.65
(1033位/1万位中)

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冒頭

今回ご紹介するのは、東京のど真ん中、東日本橋駅から徒歩を1分という都心にある「アヴェロバイシクルショップ」という自転車屋だ。

約19坪の店内には、所狭しと自転車やパーツ、工具が置かれており、自転車好きにはもちろん、男性ならだれしも憧れる「ガレージ感」がたまらない店構え。同店を切り盛りする斎藤氏に、何故自転車屋をはじめようと思ったのか、また店を開業するまで苦労したポイントなどを伺ってきた。

1:当社の事業内容
安売り店でもなく、マニア向けでもない、「ちょうど良い」自転車屋が無かった。それなら自分でやろうと思い開業。

私が東日本橋でアヴェロバイシクルショップを開いたのは、2011年7月です。会社自体はその1カ月前の6月には設立しています。

自転車屋というのは、大きく2つにわかれています。1つはサイクルベース・アサヒさんのような量販店です。日本全国にチェーン展開して、1万円台からの低価格の自転車をたくさん売っています。その反対にあるのが、1台数十万円はするような高級車に特化した「マニア」向けのプロショップです。

その中間であるミドルレンジの自転車屋がなかったので、そこにビジネスチャンスがあると思い開業しました。日本橋という立地を選んだのは、通勤客をターゲットにしたからです。周囲はオフィス街ですから、自転車で遠方から都心に通勤してくるサラリーマンの方を狙って開店しました。

サイクルベース・アサヒのような量販店は、売ったらお終いという感じで、あとはせいぜいパンク修理や部品に取り付け程度しか出来ません。一方のプロショップは、ちょっと敷居が高い感がします。そこで、手ごろな価格帯で、きちんとしたメンテナンスも受けられるお店というのが、アヴェロバイシクルショップの特長です。あとは通勤してくるお客様向けに、早朝の出勤途中に自転車をお預かりして、夕方・夜のご帰宅時にお渡しするスピーディなセミオーバーホールサービスなどもやっています。こうしたサービスはこの立地ならではのものだと思います。

自転車という商品は繁忙期が明確で、春先や秋口にたくさん売れます。引越しシーズンと重なりますね。逆にそれ以外の季節ではまったく売れないことも多いです。私の店でいえば、月の売上げの差が4~5倍あるのでこの変動に耐えられる経営というのがポイントですね。

この店で扱っている自転車の単価は5~8万円。マニア向けのロードタイプの高級車よりも、街中で乗れるライフスタイルバイクと呼ばれるタイプが良く売れます。あとは取り回しや保管場所を取らない折り畳み型の自転車も売れ筋ですね。

自転車販売は、アパレルやスポーツ用品の小売業と比べると粗利が少ない業態です。さらに、車体を仕入れてそのまま店頭並べれば済むものではなく、ワイヤ長さや各部調整が必要で手間が掛かります。その他の売上としては、組付工賃やメンテサービス料等があります。また、よく頼まれるのが、チャイルドシート取りつけですね。この取りつけは、ケースバイケースでノウハウが必要なので量販店さんだとやりたがりません。私の店ではそうしたお客様の依頼は歓迎しています。

お客様は男性・女性が半々で、30~60才と幅広いです。客層も千葉、埼玉、神奈川と都外の方が多いです。これも私の店の特長です。普通は生活圏内が商圏になりますが、圏外から通勤で通ってくるお客様に得意客になって頂けています。

2:創業プロセス・苦労したこと
メーカーの研究職、技術職から転身。サラリーマン時代に4年間修業して準備万端で開業。

元々は、メーカーで生産設備の研究開発や改善に携わる技術者でした。独立したのは35才の時ですが、独立するまでの4年ほど、休日を自転車屋で修業していました。学生の頃から自分でビジネスをしたいという思いがあったのですが、あせらずにとにかく準備を万全にして開業しました。

この店はリノベーション物件とよばれるもので、内装もほとんど手をかけず、コンクリートや配管は剥きだしのままでコストを抑えています(笑)。

あとはIKEAで購入した棚や備品で、内装費は数十万程度でしたね。一番重かったのは店舗保証金で、これが6カ月分です。あとは初期の仕入れ費用などで、開業費は合計して500万円ほどになりました。自己資金は990万円用意しました。1カ月の運転資金は仕入れも含めて150万円ほどなので、4カ月分の運転資金を確保してのスタートでしたね。

最初の一年は売上があがらずに苦労しました。完全な赤字で、2年目でようやくトントンといったところです。売れる時と売れない時の差が激しいので、常勤のスタッフも抱えづらいので、私一人でまわしていますね。流石に体力的に辛いことも多いので、もう一人店長を任せられるパートナーと探して開業すれば良かったと思います。

デフレが続くなかで、普通に商品を売るだけでは他との競争優位性・差別化できません。そこで、メンテナンス技術であったり、自転車で通勤してくるお客様のニーズあったサービスを打ち出したりして、固定客を確実に増やしていくことで、なんとか売上が伸びていると思います。

4:お金に関する考え方
会計は最初からすべて自分でやるつもりで開業した。今は決算も自分で出来る。

はじめから自計化して経費を抑える・・・

会計は開業時から弥生会計を使ってます。日々の記帳などをコツコツいれておけば、あとは自動でいろいろやってくれるので、とても便利ですね。決算も自分で行いました。専門家に依頼すると20~30万円はかかるので、その分の経費を浮かすためにも、決算も含めた会計処理は出来れば自分でやったほうが良いと思います。

事業計画が万全だったので店舗の交渉もスムーズ・・・

事業計画書もきちんと作り込みました。ベストケースとワーストケースの2つのシナリオを用意しました。店を借りる時、ビルのオーナーさんにはワーストケースだとしても経営は維持できると説明して納得してもらいました。実際、開業当初はワーストケースに近い推移だったので、計画書でシミュレートしていて良かったと思います。小売業をやるのは初めてですから、あらかじめそうした見通しも立てておかないと、不安で頭が一杯になって続けられなかったでしょうね。

また、筋肉質な経営を行うためには、当然無駄なコストは徹底してカットしないといけませんから、自分で会計ソフトを使って細かい数字まで把握するというのは必然だと思います。
常に自分で数字を把握しておけば、業績の変動などに対しても見通しがすぐ立てられるので、売上が急減した際でもどの程度まで耐えられるか、あるいは改善策を打ち出す余裕がどれくらいあるかといった試算が出来ます。数字を把握することで経営計画を客観的に立てられるメリットがあると思います。

小売業の事業計画書のサンプルを見る

※この計画はインタビュー時の内容を元に構成したもので、実際の経営上の数字とは異なります。

開業計画サポートツールについて・・・

起業してすべて思いどおりに行くなんてことはまずありえないので、最悪のシナリオをどこまで想定しておけるかが、経営者としては重要だと思います。給与が取れない場合も考慮して、自分の貯蓄でどこまで耐えられるかとか。そうした数値シミュレーションを簡単に行なえるのはとても良いですね。

5:メッセージ
一人よりも二人が良い。従業員は雇わないで、自分と同じ目線で参加してくれる仲間は大事。

この店を開業して思ったのは、もう一人仲間があれば良かったということでした。経営的に従業員を雇うのは大変です。それよりも、自分と同じ目線の高さで経営を任せられるパートナーとはじめるべきでしょうね。それこそ、最初の一年は給与など自分にすら払えない状況だとしたら、それに耐えられるのは経営者でなければ難しいでしょう。

あとは、とにかく自己資金を十分用意しておくべきという点につきます。資金がなくなったら続きませんし、売上の波がある業態であればなおのことです。小売業はよく日銭商売なので手元資金はそれほどなくても良いと言われますが、それも扱う商品によってマチマチですね。季節性の強いものは売上の増減が激しいので、厳しい時期を乗り越えられるだけの資金力は必須です。これから小売業で独立・開業される方は、そうした事も踏まえて、事業をはじめるべきだと思います。