元国税局職員・マルサも務めた夫婦が開いたコーヒー専門店。大阪高槻にある知る人ぞ知る名店「MOUNTAIN (マウンテン)」

公開日: 2015/03/19  最終更新日: 2019/11/22

MOUNTAIN (マウンテン)

代表:西田竜一 Ryuichi Nishida、西田 吉美 Yoshimi Nishida

事業内容 コーヒー豆加工販売および喫茶
所在地 大阪府高槻市
売上高 約2400万円
事業計画書の安全率 5.48
(820位/1万位中)

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冒頭

大阪駅から電車で15分程度、JR高槻駅の北口から徒歩5分ほどにある商店街に入ってすぐのところに、自家焙煎コーヒー「MOUNTAIN (マウンテン )」がある。

コーヒー豆の樽が積まれたオシャレな店舗。22坪の広さに座席は8席だけという贅沢な作り。なかに入るとコーヒー豆の麻袋や焙煎機、アンティークのコーヒーミル機がずらりと並ぶ。コーヒー好きにはたまらない本格的なお店だ。そのカフェのオーナーである西田夫妻は、なんと元国税局の職員。いわゆるマルサだ。今回は、そんな西田夫妻が15年勤めた公務員を退職して開いたという自家焙煎コーヒー店を取材してきた。インタビューは主に奥様である西田吉美さんと、いろいろとお話しを伺った。

1:当社の事業内容
大阪郊外のJR北口の駅近。高級住宅地に当時珍しかった自家焙煎店を開業。こだわりが人気を呼ぶ。

私達夫妻が高槻で自家焙煎店を開業したのは1999年。当時はまだ昔ながらの「喫茶店」が主流という時代。カフェという業態は一般的ではなく、スターバックスの店舗数も全国でも数えるほどしかない時代でした。

そんな中、コーヒー豆を自家焙煎し、お手頃な価格で提供するというお店は珍しかったのか、開店後すぐに話題となり、初年度から黒字になるほど好調なスタートでした。

従来の喫茶店との違いは、まず入りやすく気軽に楽しめる店作りを目指したことです。店の間口は商店街に面して広く開放していて、店の前を通る人たちにコーヒーの良い香りを楽しんでいただき、その香りにつれられてお店に入ってきていただけるようにしました。

コーヒーは一杯320円から出しています。キッシュやケーキなども作っていますが、8席しかないので、どんなにお客様が来ても売上はそんなに大きくはなりません。ではどうして経営が成り立つのかというと、豆の販売です。客単価が1000~1500円で、売上比としては、3対7で豆の販売のほうが大きいのです。もちろん、普通にコーヒーを飲みに来てくださるお客様も大歓迎ですが、私達の出すコーヒーを気にいっていただいて、そのコーヒー豆を買っていただき、自宅でも飲んでいただける、というのが一番ありがたいです。

豆はご注文を受けてから挽きますので時間がかかります。ですから、買い物ついでに注文を受けて、帰宅時に立ち寄ってもらってお渡しすることも多いです。そんなやりとりの最中には、ついついお客様との世間話しで盛り上がりますし、そうしている間にも次々とお客様が出入りしてきます。

そうした関係があって、今ではたくさんのお客様に支持して頂けるお店になったことで、売上は安定していますね。

2:創業プロセス・苦労したこと
土日は無収入で有名店で修業をする日々。国税仕込みの調査能力で開業計画は万全に。

私達夫妻は、開業前はともに国税局に勤務していました。仕事は多岐にわたりましたが、夫は滞納税金の徴収や事務、査察部(マルサ)には3年間在籍していました。私は税務署および国税局の内部事務、税務大学校の教育官などをしていました。

もともと結婚したキッカケというのが「定年まで公務員を続けるのではなく、いつかは一生続けられる仕事で独立開業したい」というお互いの夢があったからです。

飲食業をやりたいと決めてから、喫茶店に着目したのは、例えばレストランだと相当な修行が必要ですし、30代の私達にでも参入しやすいビジネスは何か…と考えてたどり着きました。

まだカフェチェーン店もない時代でしたので、まずはカフェとは何かというところから始めました。東京や大阪にある有名なお店を訪ねたり、半年間ほど土日に無休で働かせてもらいながら、店舗経営のイロハを学びました。

そうした修行の一方で、店舗物件もじっくりと探しました。たまたま高槻に現在の物件が見つかったのですが、駅の北側で徒歩5分という好立地だったので、ここに決めました。そこから、周辺の人口・世帯数や店舗前の時間帯別通行人数なども調べ上げました。いわゆる商圏分析というものですが、こうした調査業務は公務員の十八番なので、特に苦も無く出来ましたね(笑)。こうした基礎データを事業計画書にまとめて、融資の申し込み資料などに活用しました。

ある程度、時間的余裕もあり、自然と商圏分析などもできる立場の公務員というのは、飲食店や小売店などビジネスで開業するには、とても良い環境だったと後になって思いましたね。サラリーマンの方でも同様だと思いますが、今の仕事を続けつつ、しっかりと準備したほうが良いと思います。

そうして物件が決まり、国税局を退職していよいよ開業となるわけですが、当然周囲からは反対もありました。公務員という安定した立場を捨ててチャレンジするわけですから。一時は夫だけ退職して、妻である私はそのまま仕事を続けようとも考えましたが、結局2人とも辞めて経営に専念しました。実際には夫が先に辞めて開業し、私はその3カ月後に辞めています。

開業資金は総額1200万円ほどでした。店舗契約費用が約300万、内装が約500万、焙煎機などの機材で約300万。初期仕入れや諸経費などあわせて100万という内訳です。

自己資金は700万円で、残りの500万円は国民生活金融公庫(現:日本政策金融公庫)から借りました。事業計画書をしっかり作り込んでいったので、問題なく融資してくれましたね。

3:成長の軌跡
コーヒー専門店というこだわりと、とにかく仕事が楽しい。自営業でウツなしで、経営は安定期へ。

事業計画のとおり、開業後は順調に客数も伸びて初年度は黒字でした。最初2~3年は順調に成長していたのですが、その後、競合となるコーヒーチェーン店が出来たり、駅前に大型のショッピングモールが出来て人の流れが変わったりと環境の変化があり、徐々に経営的に苦しくなりました。お店がある商店街も今ではだいぶ寂れてしまっています。

しかし、そこで安易な施策に走らず、コーヒー専門店というこだわりと、地元に根付くことを徹底して意識した結果、ごひいきにしてくれるお客様に支えられて、なんとか安定した経営になっています。

私達のお店がうまくいった原因をあげるとすると「仕事が楽しい」という一言につきるかもしれません。よく、自営業でウツになる人はいないと言われています。夫婦2人で切り盛りして他のスタッフはいないので、体力的には辛いのですが、精神的にはとても楽です。こうやって自分達で人生を切り開く喜び、面白さは、公務員時代には考えられなかったですね。

あとは、人の繋がりが財産になることを、しみじみ感じています。若い人と同じ目線で仕事するのも楽しいですね。組織の中だと人間関係も硬直化してきますし、若い人は部下だったり上下関係もあるので、楽しいものではないですよね。そういうことがなくなって、フラットな関係の中にいることは、とても心地よいと思います。

あとは店構えや内装、備品にもこだわっているのも理由の一つかもしれません。私達はアンティークのコーヒーミルが好きでたくさん集めているのですが、それが噂をよんで、某映画の小道具で貸してくれという依頼がありました。そうした事が宣伝にもなっていると思います。

ちなみに…(ずらりと並んだ棚の上からいくつかを取りだして)、このミルは70~80年前のもので、フランスの自動車メーカーのプジョーが作っていたものなんですよ。あとは、このベークライト製のミルは高いですね。これ一つで十数万はします。ベークライトというのは、今でいうプラスチックですが、昔は珍しかったんですよ。

4:お金に関する考え方
会計処理はすべて自分でやっている。知識はあったけど実践で学ぶことが多い。

自計化のきっかけ・・・

会計は弥生会計というソフトを使って、すべて自分でやっています。主に夫が作業していますね。前職が国税局の職員ですから、お金に関してはある意味プロなので(笑)。ただ、簿記の知識があっても、実践で学ぶことは多いですね。私達のお店は開業時から法人化しましたが、最初の2年間は税理士の先生にもお願いしていましたが、今は日々の記帳や決算も自分達でやっています。今のソフトは本当に使いやすくなっているので、自力でやるのに苦労することはあまりないと思います。なにより会計作業を外部に依頼する経費が節約できるのは大きいですよね。

日銭商売なので、リアルタイムで経営判断・・・

カフェというか飲食業は、毎日お金が入る商売です。なので、毎日レジを締めて処理をするので、自然と数字は頭に入ります。ただ、現金がいくらあるかだけかを把握するのではなく、経営状況を客観的に分析して経営判断するということが大事だと思います。そういう意味でも自計化というのは大事ですね。
ちなみに、現在の年商は2400万円。法人ですので役員報酬という形ですが、私達の給与は2人で600万円ほどにしています。公務員時代よりは年収が下がりますが、それでもこの道を選んで良かったと思えます。

開業計画サポートツールについて・・・

私達が開業した当時はまだパソコンが一般的ではなくて、便利なソフトも少なかったのですが、今はこうしたツールが無料で使えて、しかもインターネットとブラウザだけで動くのですから、凄い時代になったと思います。飲食店の事業計画はある意味単純で、仕入れと売上だけ見てれば良いのですが、それでもベストケースからワーストケースと、いろいろ試してみるのは良いと思います。
私達も開業までには半年間ほど修行したり、商圏分析したり、事業計画を練り上げたりと、十分に時間をかけて準備しました。定職があるうちに、そうした事はすべてやっておいて、万全を期して開業するべきだと思いますね。なによりも精神的な余裕がありますし、上手くいきそうにないと思ったら、計画を修正したり、違うビジネスを探せたりしますから。開業で大事なのは、焦らない事だと思います。

「飲食」業界の事業計画書のサンプルを見る

※この計画はインタビュー時の内容を元に構成したもので、実際の経営上の数字とは異なります。

5:メッセージ
人との繋がりが求められている世の中。そうした目に見えないことが財産になる。

実は私達のもとに、「自分もカフェをやりたい」という若者がたびたび訪れてくるんですよ。そうした人達にいつも伝える事は、「人との繋がりが求められている世の中。そうした目に見えないことが財産になる。」ということです。

今の日本は都会化が進み過ぎて、商店街の過疎化や孤独死など、人との繋がりが希薄になったためにさまざまな問題が生まれていると思います。なので、逆に人とのつながりが大事にされる、そうした事が求められている世の中に変わりはじめているのではないでしょうか。

安いコーヒーを飲むだけならチェーン店でも十分ですが、私達の店にお客様がいらしてくれるのは、安さや経済的合理性を超えたニーズがあるからだと思っていますし、これからもその傾向は強くなるのではないでしょうか。

あとは、この店は参考にしないほうが良いと伝えています(笑)。内装費もお金をかけ過ぎたと、今になって反省しています。作りつけのコーヒー棚などはカーブになっているのですが、あれは高かったです。

もう一つ、「仕事は楽しい」という事を若い人に伝えたいですね。今は就職難で大変ですし、公務員が人気なのも理解できます。しかし、自分のためにする仕事は楽しいの一言です。ひいては、それを通じて人から喜ばれることの素晴らしさは何物にも代えられません。

起業や開業というのはもちろん困難も伴いますが、それを補って余りある充実した人生を味わせてくれます。チャンスがあると思われたら、ぜひ、チャレンジしていただきたいですね。