異業種から参入。精緻な戦略で一年で美容室を繁盛店にした鈴木氏の事業計画。安全率は?

公開日: 2015/03/18  最終更新日: 2020/04/23

RELASY(リラシー)

代表 鈴木 敏浩 Toshihiro Suzuki

事業内容 美容室
所在地 茨城県龍ケ崎市
売上高 約1800万円(2011年)
事業計画書の安全率 7.11(ランキング 707位/1万中)

 

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1:事業内容
郊外住宅地×中高年層に狙いを絞る。わずか一年で繁盛店へ。

東京都心から電車で一時間。閑静な住宅街が広がる茨城県南部の龍ケ崎市にある美容室「RELASY  hair&beauty(リラシー ヘアー&ビューティー)」。最寄駅からバスで5分ほど、大型の団地やマンションが並ぶ住宅街の中に店舗を構えています。18坪の店舗、座席数は5席。一見、何の変哲もない美容室ですが、実は開業して一年で繁盛店に急成長しました。

成功した理由は「マーケット」、「顧客」、「商圏」の3つにあります。マーケットを見ると、理美容業界の市場は1兆6000億円程度と、ここ数年は横ばいで決して良い状況ではありません。とくに自宅併設型の店舗が急速に減少するなかで、1000円カットに代表される低価格系のチェーンと高級路線に2極化しています。

顧客ターゲットの設定については、何かとお金のかかる30歳以下は低価格が売りの大型チェーン店に流れているとみて、自己投資を大事にしている感度の高い中高年層に絞りました。

商圏については、店舗があるのは典型的なベットタウン地域ですが、住民の多くは都心で働いているサラリーマン世帯だということをヒントにしました。若いころは都会的なライフスタイルやファッションを満喫したものの、中高年になってから持家を購入し、この周辺に定住しはじめました人が多いようでした。そうしたファッション感度の高い人達が集積している地域性に目をつけて、海外や都心にあるようなクオリティーの美容室を出店したところ、瞬く間に地域で話題となり、開店して数カ月で単月黒字化する経営となりました。

メンバーも海外で修業経験のある一流の美容師を揃え、サービスの品質はトップクラス。価格も安易な値引きなどは一切せず、サービス品質の維持を徹底していることから優良な顧客に支持され、リピート率は実に70%近いです。ターゲットとなる商圏人口は5000人程度でも、スタッフ4名で18坪の同店は十分に経営していくことができます。

2:創業プロセス・苦労したこと
実は異業種からの参入。経営者に徹することで店舗経営を成功に導く。

私の実家は美容室でしたが、私自身は美容師免許をもっておらず、普通のサラリーマンでした。大手金融会社から携帯電話の販売会社に転職し、ゼネラルマネージャーとして数十億の予算に80人ほどのスタッフを担当していました。しかし、お客様に直接感謝されるようなビジネスがしたいという思いが募り、2年ほどかけて独立準備。RELASY(リラシー)を開業しました。

開業までに2年間をかけて商圏や立地分析、顧客のヒアリング、ニーズ調査などを徹底して行い、郊外の住宅地の中に高級路線の美容室を開けば成功するという事業計画が出来上がりました。満を持して2011年3月にオープンした店は、3万枚ものチラシを配布するなどして、狙いとおりのスタートダッシユ。オープン当日からお客さんが殺到するなど、とても良い滑り出しを迎えました。

ところが3月11日。あの大震災が起きました。震災直後の混乱やその後の自粛ムードで、一転して客足は途絶えてしまいました。事業計画としては相当慎重な数字を想定していたのですが、それをはるかに下回る低迷で、せっかくのスタートダッシュも水の泡。開業早々に苦境に立たされました。

しかし、実は開業当時に公庫と保証協会を利用した銀行借り入れで、運転資金は一年分近く(安全率でいうと10.8程度)を確保していたので、資金繰りについては、あまり心配がいりませんでした。創業前に金融機関時代の同僚や先輩、友人に相談していて、とにかく創業資金は手厚くしていたほうが良いというアドバイスもあり、それを実行して目いっぱい借り入れていたことが幸いしました。

3カ月程度は客足が止まったままでしたが、7月ぐらいになるとようやく回復してきて、売上も計画どおりにあがるようになりました。

3:成長の軌跡
安易な値引きはしない。優良客を大事にして、客単価も自然と向上。

いろいろと試行錯誤したなかで、ターゲットとなる顧客層は若年層よりも中高年層、半径3km以内に住む5000人程度が商圏人口という事もわかってきました。これは当初考えていた仮説とおりでしたが、顧客層は想定していたよりも上で、45~70才くらいがメインとなっています。駅前など競争地域は避けて、徒歩圏内を商圏としたことがそのような結果に表れていると思います。おかげで、当店のコンセプトを理解いただける、良質なお客さんに支持される店になってきたと思います。リピート率は7割近いですが、これは安易な値引きセールなどをしなかったためだと思います。とにかくお客様の声を聞いて、丁寧なサービスを心掛けるようにしています。そうすると、自然と客単価も向上していきます。

また、チラシも1万枚程度を配るのが効率的というのもわかりました。開業当初の3万枚は明らかにやりすぎでした(笑)。ちなみに、若い人はチラシを見ませんね。チラシの効果は、中高年、主婦層が大きいです。それでも年180万程度を宣伝費として使っています。全経費の10%以上になります。

経営に関していうと、メンバーにも出資をしてもらい、共同経営者として参加してもらったことが大きいと思います。私自身は美容師ではありませんから、とにかくメンバーの意見を重視して店作りをしています。

また、開業費用は1000万円程度ですが、そのうち半分以上を内装費として使いました。店舗賃料は相場よりも安めだと思いますが、内装費については、普通よりもかなりかけていると思います。とにかく店構えはしっかりとして、高級店としての雰囲気を大事にしたかったためです。

開業から1年3ヶ月程度ですが、経営的には黒字化。だいぶ安定してきています。まだまだ予断は許さないですが、一区切りついたので、今は2店舗目、3店舗目を構想しています。また、自分自身、未経験者としてゼロから美容室を立ち上げて成功できたので、このノウハウを伝えるべく、美容室専門のコンサルティング事業も展開しようと考えています。

4:お金に関する考え方
会計処理はすべて自分で行う。肌感覚の修正を数字で調整することで正しい経営判断を。

自計化のきっかけ・・・

もともと商業簿記をやっていたのと、前職でのマネジメント経験から、会計については十分に知識があったので、会計はすべて自分でやると決めていました。日々の帳簿はもちろん、決算も含めてすべて自分でやっています。まだ1店舗だけなので自分で見られますが、3店舗くらいになれば外部の税理士さんなどに頼みたいと思っています。しかし今の規模であればパソコンのソフトを使って十分やれます。税理士さんに頼むと月に2~3万円はかかりますからね。節約ですよ(笑)。

会計を見て客観性を失わずに経営判断を・・・

自分で会計処理をして常に数字が頭に入っているので、いつも客観的に分析して経営判断が出来ていると思います。とにかく、「利益なき繁忙」にならないように気をつけています。店舗の経営はお客様と直接触れ合うので現場感も大事になりますが、そうした肌感覚を数字による客観性で修正している感じです。どうしてもお客様のためにやり過ぎてしまう部分が出てしまうのですが、そこを数字から判断してセーブしています。きちんと利益を出して経営が継続できないと店も続けられませんから、結果としてそれがお客様のためにもなると思っています。

大震災で躓いた形にはなりましたが、1年目の業績は計画時をやや下回る程度でした。利益もでて、私自身への給与も少ないですがちゃんと取れています。

創業時に余分に借りていた運転資金は、すべて返済しました。もう少し長く借りていても良かったのですが、今は銀行から借りてくれと頼まれるほど経営状態も良いので、心配はないですね。

開業計画サポートツールについて・・・

私は自分で詳細な計画を作れましたが、開業計画サポートツールというのは便利なツールですね。知識がなくても理想的な計画値がでるのは凄いと思います。こういうツールで、いろいろとシミュレーションできるのは嬉しいですね。自分が開業する時にこういうものがあれば、もっと良い計画が出来たかもしれません(笑)。もっとも計画どおりというか、理想とおりにいけば苦労はないですけどね。

私では大震災に直面しましたが、急なトラブルやその対応は計画にはできないですよね。そうした意味でも、安全率というのはとても大事な視点だと思います。どこに落し穴があるかわからない、それがビジネスの怖さでもあり、面白さだと思います。

編集部より・・・

今回のインタビューでは、鈴木氏が開業時に計画していた資料などを拝見させて頂いた。それをもとに開業計画サポートツールで計画書を作成してみたところ、安全率が7.11という非常に高い数字になった(ちなみにランキングは707位/1万人中)。「開業リポート2012」の調査では、理美容業界の健全企業の安全率は6.06となっている。成功する経営者が、如何に数字に慎重であるかが伺える。

「理美容業界」の事業計画書のサンプルを見る

※この計画はインタビュー時の内容を元に構成したもので、実際のリラシー様の経営上の数字とは異なります。

5:メッセージ
自分の考えがすべてと思うな。知っていることも人に聞くことが大事。

自分の考えがすべてと思うなという一言につきます。特にサービス業はお客様あっての商売ですから、お客様のニーズや声をどれだけビジネスに反映できるかが勝負です。価格一つとっても、いくらならお客様は払いたくなるか…という点から突き詰めて考えています。ニーズありきで、そこから事業全体を計画して、コストを計算しています。必要なコストや利益を積み上げて、それを達成するために値段を決めるなんていうのは、もってのほかです。

また、知らないことはもちろん、知っている(解ったつもりでいる)ことでも人に聞くことが大事です。私はこの店のオープンに2年も時間をかけました。1年前から具体的に立地調査や商圏分析を進めて、まわりの友人や先輩、メンバーからもアドバイスをもらいました。知っている事でも他人に聞くことで、意外な盲点や新しい発見があります。独りよがりにならない事が大事だと思います。

また、自分自身で経営を始めてもっとも感じている事は、メンタル面の維持で苦労するという事です。客商売の厳しさを嫌と言うほど味わい、本当に厳しい世の中になっていると感じています。特に価格については、とてもシビアですね。これだけ丁寧なサービスをしているのに、「高い。カットは1000円に出来ないの?」なんて言われますから(苦笑)。

そういう辛い思いをしながら、それでも事業を継続していく、それが経営者の使命だと思います。仕事というのは辛いことも多いですが、お客様はもちろん、メンバーや関係者すべてがハッピーになれる、そんなビジネスを目指して欲しいと思います。