開業資金の調達に苦戦し、300万円の契約トラブルも……。開店後は広告なしの口コミだけで大人気のレストランに
ル ポトローズ
代表 本間 寛
事業内容 | 飲食業。フランス料理店。 |
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所在地 | 東京都港区元麻布3-11-2 ガドル麻布十番5F |
目次
冒頭
「ル ポトローズ」は、コック歴30年、本場フランスでの修行経験もあるベテランシェフ本間寛氏が麻布十番に開いたフレンチレストラン。「気兼ねなく、たくさん食べられる――」、そんなフランス料理を提供している。2011年12月の開業以来、客足が途絶えることのない人気店だが、広告は使わず、口コミで顧客を増やしてきたそうだ。どのような店舗運営を行ってきたのか、お話をうかがった。
1:Plan 開業前の計画はこうだった
50歳をすぎ、「最後は自分の店をやりたい」と、2200万円をかけて開業
2011年11月にお店をオープンしました。51歳の時でした。「職人は一生食いっぱぐれない」とか言われてきましたが、今どきは50歳を超えるとリストラの対象になりますし、若い子もどんどん出てきますからね。
もちろん70歳まで現役でやる人もいらっしゃるけど、自分としては、料理人としてやっていくのであれば体がしっかり動く60歳くらいまでかなと。50歳をすぎて残り10年くらいか……と考えた時に、自分の店を開こうと決心したんですよ。
コックになって30年、料理長だと23年のキャリアで、店丸ごとの運営を任されたこともあるんですよ。雇われですが、代表取締役として11年ほどやってました。
「ル ポトローズ」を開店する決心をしたのは、やはり人生で1回は、自分でつくった店をやってみたいという思いからです。
場所は麻布十番で、新築ビルの5階。三方向に開けた窓があり、日当たりも眺めもいい。まだ建築中だったのですが、内見してすぐに決めました。広さは15坪で全24席。賃料は坪単価約2万5000円。私ともう1人のスタッフの2人だけでやってます。
開業前に決めた年間の売上目標は3300万円。当店では、ディナー・ランチ両方やっていて、客単価は昼が1000円台、夜が約8000~10000円ほど。原価率は33%くらいですが、夏場や年末はドリンク類が多く出ますので、原価率は30%くらいになります。ドリンクのほうが利益率は高いので、経営的にはたくさん飲んでほしいんですよ(笑)。
開業資金は1500万円程度を想定していましたが、新築物件だったのでキッチンなどの設備はもちろん、内装工事などを合わせて、最終的には2200万円くらいになりました。それでも、機材の一部はリース契約にするなどして、開業時の費用は抑えています。
2:Do しかし現実は、実際は・・・
苦労した資金調達、震災で投資話が流れ創業支援融資で開業
実は当初、居抜き物件でもいいと思っていました。ただ、新築物件に一目ぼれしてしまって、開業予算がかなりオーバーしてしまい、資金調達にとても苦労しました。
開業資金については、1000万ずつ出すと約束してくれた投資家が2人いて、そのお金で店をオープンするつもりでした。しかし、3.11の大震災があり、その投資話が水に流れてしまいました。
自己資金があまりなかったので、保証協会で東京都の創業支援の審査を受け、銀行経由で1500万円の融資を獲得。残りの700万円は、友人・知人に頼んで借してもらいました。
開業資金の調達にはとても苦労しました。というのも、お店がまだできていなく、かたちになっているものを見せることができないわけです。そんな状態で「この場所で、こんなスタッフと、こんな料理をやります」という計画をプレゼンするわけです。信用してもらうのに時間がかかりましたよ。
すでに4店舗を経営していて、「5店舗目を出店するので融資してほしい」というなら話も早いでしょうが、最初の1店舗はそうはいきません。なので、事業計画書は初めて開業する人で、資金を外部から調達したい場合、とても重要だと思います。
広告費は使わず、口コミだけで運営。1人1人のお客さまとのコミュニケーションを密にファンづくり
開業前の計画で年商3300万円と見ていたのですが、ふたを開けたら、3000万円くらいでした。でも、何とかやっていけます。
広告費はほぼゼロです。ぐるなびとか食べログとか、ああいった媒体から「掲載しませんか」という営業がしょっちゅうくるのですが、全部断っています。飲食業界の売り上げに対する広告費の平均は10%くらいといわれています。私はそうしたコストはかけたくなくて、その分をお客さまに還元したいという気持ちでおります。
あと、個人的に思うのは、ああいったサイトの評価はあまり参考にならないですよね。お金を払えば上位に掲載されますし。あと、個人の好みの違いもありますから、一概に美味しい店というのは決められないと思うんです。
そういうわけで、私の信念は、「私のつくる料理に賛同してくれるお客さまが来てくれればいい」。あまり積極的に集客してなかったので、売り上げは計画に届かない状態が、ファンになってくれたお客さまがたくさんいるので、十分やっていけると思っています。
3:Check こうしておけば良かった
料理、飲み物を原価率は常に把握。お客さまに合わせてコースも臨機応変に対応
日々の数字はすべて自分でつけています。勘定課目なども最初はどれがどれだかわかりませんでしたが、何千パターンもあるわけではないので、やっていれば徐々に慣れてきます。
なにより、今の会計ソフトは本当に便利にできていて、困った時も「こんな時は?」というQ&Aが出てきて教えてくれますし、それでもわからないところだけ税理士に質問すればOK。3カ月もやれば大抵のことは自分だけでできるようになりますね。今も年度末の決算処理など、難しいところだけ会計士の先生にご指南してもらっていますが、日常的な経理処理は自分でやったほうがいいと思います。
会計を自分でやっていて思うのは、原価率のことが常に頭の中にあることです。例えば料理よりドリンクのほうが利益率が高いので、料理がたくさん出るよりドリンクがたくさん出たほうが経営的にはプラスです。あるいは予算が決まっているお客さまの場合、事前に電話で要望を伺って採算のあうコースを組み立てて臨機応変に対応しています。
男性が多ければ料理のボリュームを多いものにする代わりに高い料理は出さないようにとか、女性ならその逆にしたり。お酒をあまり飲まれないならグレードの高いワインを勧めたり。
「男性中心? たくさん飲んでたくさん食べる? 乾杯もしたい? シャンパンはこの予算ではムリだけど、シャンパンっぽいものをお出ししよう」というような感じのやりとりをよくしています。
開業資金を使いすぎたと反省。契約ミスで余分なお金も……
店を経営していて思うのは、やはり開業資金を使いすぎたという点です。あと、内装工事費でトラブルというか、大失敗したことがありました。
開業準備をしていた時のことなのですが、当時勤めていた店のお客さまの中に、元銀行員で役所への出向経験もあり、将来喫茶店の運営を考えていて、「店舗の立ち上がりに興味があるので、いろいろ手伝わせてほしい」と言ってくれた方がいました。
2011年6月くらいにはオープンする予定で動いていたのですが、3.11の大震災で出資話がなくなってしまい、資金調達の手段を模索していた時に、そのお客さまから制度融資のアドバイスをもらったんです。その後もいろいろと親身に話をしてもらったので、一緒に店舗の候補地を見て回ったりしていました。
そして、出店場所を麻布十番の新築ビルに決めて、内装工事の見積もりを取ったところ、1400万円という金額が出てきました。しかも、着手金として半分の700万円は先払いに、と言うのです。手持ちのお金は不動産契約でほとんど使ってしまっていたので、現金が足りませんでした。
その時に、そのお客さまから、「うちは建設業もやっているから、うちが元請けになって内装業者に発注するかたちにしよう」という提案がありました。このお客さまは自分で会社をやっていたり、他社の役員もかけ持ちしている方だったので、渡りに船とばかりに、その話に乗りました。
そのお客さまと内装業者は契約を締結して工事は順調に進みました。私とそのお客さまの間では、契約をしていませんでした。
工事業者に聞いたところ、実際は1100万円で工事を受けていたことを知りました。見積が1400万円なので、そのお客さまに、約300万円ほど抜かれたわけです。これは結構大きな金額です。運転資金の1カ月分以上ですからね。失敗したと思いました。
後日、この件を弁護士さんに相談したのですが、契約を交わしていないということで、仮に中抜きの300万円を不服とする訴訟を起こすにしても、時間も手間もかかって取り戻せるかどうかはわからない……と。結局、どうすることもできずに終わりました。今となっては、高い授業料です。世の中、うまい話はないということですね。
知人や友人であっても、ビジネス、ことお金に関しては契約を結ぶことの大切さを学びました。今は契約書などの書面を交わすことは当然ですが、見積書や契約書の金額や期日などの数字も、とにかくしっかり確認するようにしています。
4:Action 俺は一年目をこうして切り抜けた
集客のコツはコミュニケーション。口コミ広報戦略で集客に成功
集客も当初は苦労しましたね。飲食系のインターネットサイトなどは使わないというポリシーでしたので、そういった媒体には頼らず、お客さまと直接コミュニケーションをとって、ほぼ口コミのみで顧客を獲得をしていきました。
例えば、食事中にお客さまの席まで足を運びコミュニケーション。お腹がいっぱいなら料理の量を減らしてデザートを出してあげたり、お肉はあまり好きじゃないという女性のには、他の料理を出してあげたり。
そういった、マニュアルにないコミュニケーションを心がけて、とにかくお客さまに満足してもらうようにしています。ただ食べるだけでなく、楽しんで帰ってもらうのが一番大事です。
また、ショップカードか自分の名刺を渡しているのですが、お客さまからの連絡は休日でも対応します。急な接待で使いたいとか、結婚した友人のお祝いパーティーを開きたいけど一人当たりこのくらいの予算で抑えたいとか。そういう細かい要望にも極力応えるようにしています。
結果的に、新しいお客さまのほとんどが口コミで来店していただけるようになりました。リピート率も高いです。私としては、お客さまの使い勝手のいいお店になればと思っています。
コンセプトはお腹が空いた時に友だちと訪れるフランス料理店
日本人がつくるフランス料理は、芸術的で繊細で素晴らしいと思います。非常に進化しています。ただし、私がフランスに渡って5年程修行した時代の料理、本場で私がいいと感じた料理とはかけ離れています。
日本のフランス料理店は、どこにいっても綺麗な料理が出てきます。でも、僕が食べたいフランス料理ではありません。
例えば、ほとんど野菜でちまっとお肉が乗っていたりするもの。私は、鴨なら鴨、ステーキならステーキというふうに、見た目もボリュームも楽しんでもらえるお肉料理を私の店では提供しています。
フランス人は「日本のフランス料理はきれいだね」と言います。今の日本のフランス料理はフランス料理ではなく、日本式のフランス料理になっています。もちろん接待、記念、結納の席などでは、そういったオシャレなお店がふさわしいとは思います。
ただ、私が目指しているのは、お腹が空いた時に友だちと気軽に来られるようなフランス料理店。フランス人が食べる正統派のフランス料理のお店なのです。
5:メッセージ
開業時に交わす契約の内容はしっかり確認しよう
私の反省点でもありますが、契約の締結をきっちりすること、見積もりや契約事項をきっちり確認してほしいと思います。開業時は特に慎重になってほしいですね。
あとは制度融資とか、そういう素晴らしい仕組みがあることも調べて勉強しておくべきです。私はたまたま知ったものの、知らなければ開業資金の調達ができたかどうか疑問です。
飲食店はとにかく最初にお金がかかりますし、すべてを自己資金で賄うのは厳しいでしょう。実際、私は手元に200万円ほどしかなかったのですが、こうしてお店を出せました。開業支援の制度や仕組みは知っているのと知らないのでは大違いです。
ちなみに「ル ポトローズ」という店名の意味は、直訳すると「ポットに入ったバラ」で、フランス語の言葉にふくまれた意味としては”秘めた思い”です。フランス人の友人が教えてくれて、響きもいいし、言葉の意味も気に入って決めました。