IT業が成功する事業計画書のつくりかた【公庫OBが監修】
みなさんは事業計画書にどんなイメージをお持ちでしょうか。
「作成が面倒」
「つくる理由がわからない」
といったイメージを持つ方も多いかと思います。
なかには、
「経験があるから事業計画書はなくても大丈夫」
と自信をお持ちの方もいるでしょう。
とくにIT業は初期投資が少なく、フリーランスや副業の延長で始められるので事業計画をつくるタイミングがなかったという方もいるでしょう。
しかし、事業計画書を作成することで、融資が利用できる、計画の見落としや漏れをなくすことができる、事業を見直すきっかけとなるなど、多くのメリットがあります。
この記事では、はじめて事業計画書をつくる方向けに、事業計画書作成のメリットや作成の流れ、注意点を実際のIT業の事業計画書を例に解説します。
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元日本政策金融公庫の融資課長として5000名以上の起業家を支援した上野アドバイザー。現在は、資金調達の専門家として活躍されております。融資を検討されている方はぜひご相談ください。
著書「事業計画書は1枚にまとめなさい」「起業は1冊のノートから始めなさい」など。
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目次
事業計画書は必要?いつつくる?
事業計画書を作成すると融資を受けられるだけでなく、それまで漠然としていた事業のイメージが明確となり、自分に足りなかった部分の発見や正確な事業資金の見込みを立てることができます。
事業計画書が必要な理由
<融資のため>
IT業は初期コストを抑えて起業できる事業ですが、とくに受託型で仕事を請け負う場合は受注から入金までのサイクルが長いという特徴もあります。
事業をはじめるにあたって資金が不足している場合には、金融機関から融資を受けなければなりません。創業者が融資を受けるには、日本政策金融公庫の新創業融資制度や制度融資などを利用することになります。いずれについても申込み時には創業計画書や事業計画書の作成が必要となります。
また、事業計画書は単につくって提出すればよいわけでなく、計画の内容にもとづいた審査がおこなわれます。内容が不充分だったり、問題があったりする場合には融資が否決されてしまいます。そのため、希望どおりの融資を受けるには、精度の高い事業計画書を作ることが不可欠です。
<事業の明確化のため>
これから事業をはじめる方であれば、およその事業プランや資金について考えていると思います。しかし、そのプランのままで、本当に事業をはじめることができるでしょうか。
頭のなかにあるプランは、えてしてあいまいな場合が少なくありません。そのままでは「どんなものにいくらの資金が必要か」や「自分で用意できるのはいくらなのか」、「営業をする上でいくら経費がかかるか」などの質問には答えられないのではないでしょうか。
しかし、事業計画書の作成ではあいまいなプランを整理し、不足や間違いをただすことができます。そのため、これまで気付かなかった事業の問題点の発見や、あらたなアイデアを生み出す手段としても活用することができます。まずは、事業計画書のフォーマットを使って、どこまで内容を埋められるかからはじめてみましょう。
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事業計画書作成前にやるべきこと
IT業とひと口にいっても、その内容は事業ごとに大きく異なります。そのため、これから自分がおこなう事業をベースとして、以下の点について整理しましょう。
経営資源の現状把握
事業では、「ヒト・モノ・カネ」の3つの要素が欠かせません。そのため、このうちひとつでも欠けていると、開業してもすぐに頓挫してしまうことになります。
<ヒト>
IT業は、アプリ開発、AI開発、web制作、デザイナーなど、作業の内容に応じて多岐にわたる人材を必要とします。そのため、常時、必要な人材を雇用する必要がありますが、昨今の人手不足のなかでは十分な人材を確保できているとはいえません。
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が国勢調査と企業アンケートをもとにし、おこなった調査によれば、IT人材は2019年をピークに供給減少が始まり、2030年には約59万人が不足すると推計されています。その原因としては、少子高齢化のほかに下請けの多い労働環境や、不規則な労働時間などによる離職率の高さがあげられます。
参考)IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果(経済産業省)
今後ますます人手不足が深刻さを増すと予想されるなかで、IT人材を確保するには、労働環境の整備が必要となってくるでしょう。
<モノ>
IT業は、パソコンなどのIT機器や、専用アプリがあればおこなうことができるため、設備的には負担の軽い業種といえます。しかし、専用アプリには高額なものも多く、更新にも費用がかかることから、あらかじめどのような設備が必要となるのかを事業計画書のなかで明らかにしておく必要があります。
<カネ>
IT業では、ほぼ仕入れが発生しないため、経費のほとんどを人件費と事務所や会社の賃料が占めることとなります。IT業でしめる経費の多くは運転資金となりますが、受託型の案件の場合は取引条件によっては入金されるまで半年以上かかることも珍しくありません。そのため、入金までの間の資金を確保をしておくことも重要な課題となります。
事業コンセプト
事業計画では、「何をやりたいのか」、「なぜ、それをやりたいのか」を明確にする必要があります。たとえば、IT業には多くの事業内容がありますが、実際に事業としておこなうことができるのは、そのなかの1~2つが限度です。また、いずれの事業においてもライバルは存在するため、「ライバルとのちがい」や「どんなことができるのか」、「本当に事業プランを実現できるのか」といった、知識や技術の棚卸をおこない、自分の強みを見つけないと、すぐに行き詰まってしまうことになります。
また、事業経験が浅い場合には、すぐに受注を獲得することは困難です。一人での事業運営が難しい場合には社員を雇用したり、外注先に頼ったりしなければならなくなります。
開業にあたって、実現したいコンセプトを持つことは重要ですが、本当に実現できるのかや、そのためにどんな準備が必要なのか、資金は確保できるのかについても、計画ベースで明確化しておく必要があります。
事業内容
事業計画作成時には、6W2Hにもとづいて組み立てると、プランの漏れや間違いが減らせるため効率的です。
① why(なぜこの事業をおこなうのか?)
「なぜこの事業をおこなうのか?」は、事業コンセプトにおいてはじめに考えるべきものです。この部分が明確であるほど事業を継続しやすくなります。しかし、いきなりまとめるのが難しい場合もあるでしょう。その場合には、事業をはじめようとしたきっかけや、過去の経歴・所有しているスキルやノウハウなどを振り返り、これからおこなうことに不足がないかを検討してみましょう。検討したなかに大きく不足している部分がある場合には、準備ができるまで、開業を見送る決断も必要となります。
② what(商品・サービスの具体的な内容は?)
商品・サービスを考えるうえで重要なのは、どんな商品やサービスを開発・販売するかよりも、それが市場のニーズを満たすものであるか判断することです。たとえ、どんなに技術的に優れていたとしても、必要とされる場がなければ、事業としては成り立ちません。
たとえばホームページ作成などは、多くの業者が参入している結果、1~2万円でワードプレス対応のホームページが作成可能になっています。ECサイトも無料で始められるプラットフォームが数多く登場しています。
このような価格競争に巻き込まれるのではなく、付加価値の向上や、新しいサービスの提供を常に考え、実行していくことが求められます。
③ where(想定する場所は?)
以前は、IT業を開業する場合でもある程度のスペースが必要でした。しかし、現在はリモート取引やweb会議ができるため、広いスペースは必要なくなりつつあります。また、物販と異なり、路面店や人どおりが多いところが有利ではないため、場所的な制約はほぼないといえる状況です。
しかし、どこに参入するかについては、その業界の状況、見込まれる業務量などを研究し、成長性の高いところを選ぶことが必要です。研究を怠ったままの参入では、10年後にはその仕事や業界じたいがなくなっている可能性もあるため、長いスパンで考えましょう。
④ whom(顧客は?)
売上の元となる顧客の存在は、事業を継続するうえで、最重要のものとなります。受託開発なら顧客を獲得しなければなりませんし、ユーザー向けのサービスを始めるならマーケティングも必要です。
スタート地点でつまづかないためには、あらかじめ最低限の受注を確保しておくことが重要となります。また、新規開拓する場合であっても、開業当初では、知名度や実績がなく、すぐに受注を確保するのは困難です。自分で広告や営業をするほかに、ココナラやクラウドワークスなどの公開型募集を利用して地道に実績をつくっていく方法も検討しましょう。
⑤ how to(どんな特徴で、どんなノウハウを使うのか?)
他人とまったく同じことをするのでは、開業する意味は薄く、事業成功の見込みも低くなります。しかし、どこかひとつでも他人よりも優れた点があればそれを武器として優位に事業を展開できます。たとえばweb制作であれば、単にきれいなホームページがつくれるというだけでなく、「SEO効果が高い」、「海外向けのデザインができる」、「文章力に定評がある」など、強みとなる部分を見つけ、それを宣伝や戦略に生かすようにしましょう。
⑥ when(どのようなタイミングでおこなうか?)
事業では、いつおこなうのかといったタイミングも重要です。IT業の場合には、飲食店ほど開業時期による売り上げの影響はありません。それでも新しい技術やしくみが出てきたときは、売り込みのチャンスとなります。
とくに今後はインボイス制度の導入が予定されており、適格請求書発行事業者であるか否かによって、依頼者が発注をためらう可能性もあります。この点についても考えておくべきでしょう。
⑦ who (誰がやるのか?)
一人で開業する場合には問題となりませんが、パートナーや共同代表と一緒に事業を開始するときには、役割や権限を明確にしておかないと後のトラブルのもとになります。とくに同じ割合で出資をしている共同代表の場合には、その後の報酬や戦略、議決権の行使などでトラブルになる可能性があるため注意してください。
⑧ how much(資金は?売上高や利益の目標は?)
どれだけ資金が必要となるかや、どの程度の売上げ・経費を見こめるのかは、事業計画の中核ともいえる項目です。一般的な資金調達の方法としては銀行借入れがありますが、事業の内容によってはベンチャーキャピタルからの出資やクラウドファンディング、補助金なども検討できます。
とくに出資金や補助金などは返済不要なため、導入できればその後の資金繰りが楽になります。しかし、きびしい審査があるため誰でも利用できるわけではありません。また、売上げや利益の目標は単なる希望や想定ではなく、エビデンスや根拠にもとづく計画でなければ、売上げ不足や資金ショートを引き起こす原因ともなります。
市場分析
2020年度における日本の民間ICT市場(ICT投資額)は、一部で新型コロナウイルス感染症による業績不振などが見られたものの、大企業ではおおむね計画どおりの投資がおこなわれました。また、テレワーク実施に向けた環境整備、企業によるICT投資が加速したことなどにより、2020年度における日本の民間ICT市場規模は12兆9,700億円(前年度比0.6%増)となっています。しかし、各業種にはばらつきがあるため、参入する市場や同業他社に関する分析は欠かせません。
参考) 総務省 令和4年版 情報通信白書
具体的な分析方法としては、政府や業界団体が発行する統計や業界情報を集めたサイトの参照、業界研究セミナーへの出席などがあります。また、ほかにも自分の会社の強みや弱みを知り、適切な市場はどこなのかを調べることも大切となります。分析をする上では、次のようなフレームワークを使うと、確度の高い自己分析が可能です。
・市場マトリクス
製品(技術)と市場という2つの視点から、どの分野に参入すべきかがわかります。
・セグメンテーション
市場を細分化することで、ターゲット市場を分析することができます。
・ポジショニング
これから参入する市場における自社のポジションを確認できます。
・SWOT分析
自社の強み・弱み・機会・脅威を分析するのに役立ちます。
資金の流れ
事業において必要となる資金は、次の式で表されます。
運転資金+設備資金 = 自己資金+融資額
そのため自己資金が少ない、もしくは運転・設備資金の額が大きい場合には多額の融資が必要となります。
自己資金は、事業のために貯蓄したお金などが該当します。しかし、借金などの返済義務があるお金は自己資金には含みません。なお、自己資金の額が大きいほど融資の際に有利となります。
運転資金は、経営をする上で常に必要となる資金です。IT業では主に次のような運転資金がありますが、会社の設立をする場合には登録免許税などの費用が別途かかります。
- 初期仕入れ費用(ソフトウェアやライセンスなど)
- 事務所の賃貸費用(自宅開業の場合は不要)・社員の給料(一人での開業であれば本人の給料)
- パソコンやプリンターなどの機器
- 水道光熱費
- 宣伝広告費
- 雑費
設備資金は、事業をおこなうために必要となる設備類の購入費ですが、IT業の場合には、原則不要です。なお、IT業においては報酬の入金時期にも注意が必要です。高額の報酬でもその入金時期が半年以上先となる場合には、その間の運転資金が不足してしまうこともありえます。見た目の売上だけでなく、いつ入金されるかについても気をつけ、しっかりとしたキャッシュフロー計画を立てなければなりません。
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IT業が成功する事業計画5つのポイント
本項では日本政策金融公庫の創業計画書記載例(ソフトウェア業)を例として、事業計画書の主要な項目について解説いたします。
参照:https://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/kaigyourei05_220401g.pdf
また、事業計画書のつくり方に不安がある方は、ドリームゲートの事業計画書作成サポートツールをご利用ください。IT業に特化し、先輩起業家と比較してあなたの事業計画の安全度がどのくらいかがすぐに分かります。
①確定した受注案件がある
開業時に何らかの受注案件や見込みがある場合には、大きなアドバンテージとなります。また、じっさいの事業においても、開業後6ヶ月以内に資金が不足するケースが多くなっています。そのため、安定した受注があれば、開業当初の苦しい時期を乗り越えることができます。
なお、金融機関の審査においても、受注やその予定がある場合には高い評価ポイントとなるため、必ずその案件や見込額を事業計画書に記載するようにしましょう。
②スモールスタートである
金融機関では、「小さく事業をはじめる」ことを推奨しています。その方が少ない経費ではじめられるだけでなく、万が一、事業に失敗した場合の負担も少なくて済むからです。
通常、IT事業では開業にあたって多額の資金は不要です。それでも社員を雇ったり、高額なIT機器を購入したりする場合には、多くの費用がかかることがあります。しかし、「本当に必要な人員なのか」、「もっと低い性能のもので対応できないか」などを検討し、できるだけ初期費用をおさえるようにしましょう。
③事業計画書の数値に根拠がある
事業計画書の審査で、金融機関がとくに注意するのが「返済の可能性」と「資金の使い道(資金使途)」、「それらの数字の根拠」です。
受注予定がある場合には、発注書などが売上のエビデンスとなりますが、見込みの場合には具体的な資料を示すのが難しいといえるでしょう。しかし、この場合でも、〇〇の宣伝や営業により〇〇円の受注を〇本(見込額〇〇円)程度獲得できる見込みがあるといった、できるだけ客観的な数字にもとづく説明をすることで、信ぴょう性を増すことができます。
また、資金の使い道については、設備であれば見積書を提出します。運転資金の各項目についても、できるだけ信頼のおけるデータによりその内容を説明できることが望ましいといえます。(例:webの商品ページの価格など)
④知名度の高い案件の経験や豊富な経験がある
日本政策金融公庫の新創業融資制度では、これから起業する業界における5年以上の勤務経験(斯業経験)をひとつの要件としてあげています。しかし、必ず5年以上が必要というわけではなく、しっかりとした内容であれば5年に満たない場合であっても融資が認められることもあります。
とはいえ、経験年数がまったくない場合や極端に少ない場合には、融資審査ではかなり不利となってしまいます。融資の申込みをするのであれば、ある程度の経験を積んでから申し込むのが安全といえるでしょう。
なお、直接の経験がなくとも、近い経験や経営に役立つ経験(たとえば経理や総務など)などは経営に役立つものと認められやすくなっています。直接の経験がない場合には、このような経験がないかを探してみましょう。また、以前に知名度の高い案件に携わった経験や受賞歴がある場合などには、これらも評価の対象となります。
⑤メンバーの経歴やITスキルが明確である
代表者やメンバーの経歴は、できるだけくわしく記入しましょう。前職での開発経験やスキルなどでPRできるものがあれば、積極的に記入することが大切です。とくに担当する業務の内容が分かれている場合は、各人にどのような業務経験やスキルがあるかを書くことで、担当者の事業に関する不安や不信感をなくすことにつながります。
経歴はできるだけ具体的かつ詳細に書くとともに、その経験が今後の業務にどのように生かせるかについても触れるよう工夫しましょう。
IT業で成功するための事業計画をたてよう
IT業は今後、さらなる発展が見込まれる分野です。しかし、各々の分野における事業内容も大きく異なるため、これから参入しようとする分野について十分な研究・分析をする必要があります。また、事業プランについては、ただ頭で考えるだけでは満足できるものになりません。事業計画書としてアウトプットすることでさらに内容が明確になり、計画の漏れやミスをなくすことにつながります。
しかし、これまでに事業計画書をつくったことがなく、「作成の手順がわからない」、「できるだけ間違いのないものをつくりたい」という場合には、専門のツールを使っての作成をおすすめします。
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著書「事業計画書は1枚にまとめなさい」「起業は1冊のノートから始めなさい」など。
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