インド、ベトナム。海外展開で活路を開くITベンチャー

公開日: 2015/03/19  最終更新日: 2019/11/22

株式会社ムロドー

代表:根本 崇司、飯田 啓之

事業内容 スマートフォンアプリケーションならびにWebシステムの企画・設計・開発。
所在地 東京都港区赤坂
事業計画書の安全率 6.06
(552位/1万中)

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冒頭

「情報の再発見と流通」を理念として2007年に創業したムロドー。創業者はNTTでインターネットインフラの根幹から携わった飯田氏と、ぐるなびのエンジニアだった根本氏。現在は首相官邸にもほど近い都心の超一等地にある赤坂ツインタワーの1階にオフィスを構え、東京に約20名、ベトナムに約30名のスタッフを抱えている。今回はベトナム出張から帰ってきたばかりの共同創業者 根本氏にお話をうかがってきた。

1:事業内容
2名で共同創業。システム開発を受託しつつ、自社サービスも展開。2年目には大勝負へ。

ムロドーは2007年4月に中目黒で創業しました。飯田と私は創業の3~4年前に知り合い、お互いの会社の先輩も含めて、あるWebサービスを作ろうとしていました。開発は途中まで進んでいたのですが、米国のベンチャー企業が似たようなものを先に出したため、公開は断念。その後、なんだか皆気が抜けて(笑)、いったん転職。転職先での仕事も一区切り着いたな、と思っていたタイミングで飯田に再会したら、向こうも同じだったので、「じゃ、なんかやるか」という感じです。

我々が相対的に得意な領域は、巨大なECサイトやWebサービスを支えるサーバシステム構築や大規模リアルタイム検索システムなど、技術力が必要とされる分野。名前は出せませんが、某大手旅行代理店のWebシステムの基幹部分や、世界的に有名な巨大エンタメ企業のオンラインゲームなども手掛けています。

いわゆるWeb制作会社ではとても手掛けられないような難易度の高いシステム開発の実績が多く、ご指名で案件依頼が来ることも多いです。ただ、一つ一つのプロジェクト規模が大きくなると、経済条件等も含めて我々のような規模の企業では難しいことも多く、経営的には常に緊張感をもって進めています。

おそらく他のITシステム開発会社も同様ですが、日本国内は激しい価格競争下にあり、システム開発の単価は年々下がっています。かといって、安かろう悪かろうで学校を卒業ばかりのような駆け出しの開発者を抱えて開発単価を落とすのは本末転倒。しっかりした技術力とお客様の本質的な課題を解決する企画力が競争力の源泉でもあるので、受注案件とスタッフの質量両面におけるバランスは常に課題です。

そうした環境ですが、今年で6期目となる当社は、事業規模も徐々に大きくなっています。最近はスマートフォン関連の開発が増えていますね。2~3年前まではパソコンでWebを使うことが前提だったものが、今は8~9割はスマートフォンで使うことが前提のサービス開発になっています。この変化の激しさはIT業界ならではですが、スマートフォンへの移行は急速に進んでいますね。ITシステムの受託開発を生業にしている会社は、その対応に追われているのが現状ではないでしょうか。

2:創業プロセス・苦労したこと
1年目は順調。しかし2年目の勝負が後々尾をひくことに…

ムロドーは私と飯田の二人で創業しましたが、数カ月で2名増え、初年度は4名でやっていました。飯田が主に営業と経営管理。根本は開発部隊の監督という分担。ありがたいことに、前職のつながりや知人からの紹介で、仕事の相談を頂き、なんとか売上はあげられる状態でした。

そうした結果、初年度は黒字でした。しかし、創業時の計画では受託開発だけをやるのではなく、自社事業も視野に入れていたので、2年目は受託案件をあえて減らして、自社サービスの開発に集中しました。まあ、よくあるパターンですね。

スタッフも7名程度に増員し、開発したサービスの一つは、IT業界で世界的に有名なTechCrunchが米国シリコンバレーで開催したベンチャーコンテストに参加。3,000社以上の出場から、セミファイナルまで進出し、国内外のいろいろなメディアに取り上げられました。

その時にリリースしたサービスは、Webブラウザの機能を拡張して、高度なブックマーク管理やブックマーク自体を知人と共有したりできるというサービスでした。ロールスクリーン方式という技術的・UI的に新しいものに挑戦して、自画自賛ですがよく出来ていたと思います。

しかし、マネタイズというか、独立した事業として維持・拡大していくところまでは至らずに、サービスの運営は中断しました。「今から思うと、もっと違ったやり方があったな」と飯田とたまに話すことはあります。国内外のVCは殺到してきましたね。全部断りましたが。

結果として、2年目は当然経営的にかなり厳しい年になりました。創業時に借り入れた資金が800万円ほどあったので、資本金800万円と合わせて、資金繰りはなんとかなりましたが、3年目以降でリカバリーしなければいけなくなり、積極的に営業も始めました。

そうして3年目はトントン、4年目は黒字で、5年目には今の赤坂オフィスに移転して、スタッフをさらに増強。そして今年が6年目になりますが、ベトナム進出という新たな一手を打ったというしだいです。今年が、いろんな意味で今まで一番タフな1年になると覚悟しています。

3:お金に関する考え方

自計化のきっかけ・・・

会計については、最初 から会計ソフトをつかい、自分達でやってました。顧問税理士の方にも毎月数字を見てもらって、指導を受けています。もちろん今も継続してお世話になっています。

ITシステム開発というのは、固定経費として主に家賃と人件費に光熱費、通信費くらいです。変動費もあまりないので、経営的に意識するのは売上・入出金管理。

売掛金回収のトラブルは一件もないです。我々は大手企業と直接取引が多いので、当然のことながら、この辺はしっかりされています。

ただ、各プロジェクトが大きいので、一回当たりの売上・入金額も大きくなります。これが1カ月ずれるだけ大変です。帳簿上では黒字なのに、手元にある現金は少ない。このあたりの管理が重要ですね。

資金的な余裕があれば、事業の幅を広げて新しいことに挑戦できる・・・

あとは創業時に目黒区の制度融資を使って、安い金利で800万円の借入をしていたのも、結果としては大正解でした。2年目に自社サービスに集中した際も、この借入があったので余裕がありました。創業時には各種の支援制度があるので、適切なものを利用することは大切ですね。

開業計画サポートツールについて・・・

飯田は前職で事業開発なども手掛けていたので、事業計画書の作成は得意なほうだと思いますが、それでもエクセル上でいろいろなケースを想定してシミュレーションしないといけないので、こうしたツールで簡単に数字をシミュレートできるのは面白いですね。

過去の事業立ち上げや事業部門のマネジメントをしていて、会計の知識もあるような人なら、会計ソフトなども駆使して仮想の事業計画やPLを作れるのでしょうけど、そうした知識が無い人にとっては、このくらい簡単に使えるツールはとても良いと思います。

事業計画を最初に作る際に、どうしても夢見がちで大成功するケースしか想定しないと思います。しかし、思いのほか事業を進める上で発生する経費は多いです。そうした項目を意識していくと、全然利益が残らなく余力のない計画になります。また、売上が予定とおりに上がるという保証もないので、大赤字になる最悪のケースも想定すべきでしょうね。そうすると、1年目でどれだけ赤字が出て、その時に自分の預貯金だけで乗り超えられるのかどうか。資金の借り入れや場合によっては増資といった選択肢も検討しなければいけません。

そうして、どれだけさまざまなパターンを想定しておけるかが、失敗を回避する一つのポイントだと思っています。

編集部より・・・

今回のインタビューでは、根本氏に開業時のことを振り返ってもらい、その当時の数字を元に開業計画サポートツールで計画書を作成してみたところ、安全率が6.06という高い数字になった(ちなみにランキングは552位/1万人中)。「開業リポート2012」の調査では、ITシステム関連業界の健全企業の安全率は3.38となっている。

「ITシステム」業界の事業計画書のサンプルを見る

※この計画はインタビュー時の内容を元に構成したもので、実際の経営上の数字とは異なります。

4:成長の軌跡
どこの国であろうが、価値ある仕事をしっかりと。

2012年6月にベトナムに開発拠点を作りました。現地法人を設立し、日本人を責任者として派遣してます。役員も現地に部屋を借りて長期滞在できるようにして、現地採用したエンジニアの教育を急ピッチで進めています。ベトナムはITインフラも整っていて、大学進学している若者の教育レベルは非常に高く、人件費が高騰している中国で同様のエンジニアを雇うのに比べて、かなり割安になっています。

しかし、コスト的なメリットはあと数年でなくなると思います。そのくらい経済成長率が高く、人件費をはじめ値段が上がっています。実際、ホーチミンの都心部でオフィスを借りると、賃料は東京の郊外に借りるのと変わらないレベル。賃貸マンションも20平米のワンルームで500ドル。今は円高なので4万円相当ですが、感覚的にはこれも東京の郊外の安マンションを借りているのと同じ。生活コストはけっして低くはありません。

ベトナムの人口は約8,400万人で、経済成長率は年率5~8%。インフレ率も高いのですが、経済規模や一人当たりの所得はどんどん増えています。そして、ベトナム人はとにかく元気で明るい。生活レベルは日々確実にあがっていて、日本の70年代のような雰囲気だといわれています。

現在は、日本国内で受注したプロジェクトの一部をベトナムで開発しています。現地エンジニアの教育もかねて、難易度の低いものから日本でやっても高いものまで、組み合わせて進めています。将来的にはもちろん、ベトナムの国内市場でもビジネスをしたいと考えています。

ベトナムには日本のSIerに相当するIT企業があることはあるのですが、「言われたことしかできない」という所が大半です。システムの企画や設計という仕事から受けられる会社は皆無。

日本人のエンジニアは、まず顧客の要望を聞いて、それを実現するためにどんなシステムにすべきか…というところから仕事をします。しかし、ベトナムでは仕様書に書かれていることしかできない。ベトナムの仕様書は、プログラムのフローチャートやデータのやり取りまでがすべて書かれた完全な設計書。しかし、その仕様書そのものを作る能力がない。

私達はここにチャンスがあると考えて、現在、ベトナムの現地エンジニアにシステムの企画や設計の方法論から教え込んでいるところです。幸い、ベトナムの大学は実践的な教育方針らしく、ITの基礎知識やプログラムの作り方はきちんと学んで卒業しているので、そのままプログラマとして使えます。そうした下地があるので、あとは上流工程と呼ばれる部分の仕事を覚えれば、日本のエンジニアと技術的に伍していけるようになると考えています。 私は今、ベトナムに長期出張なのですが、その立場としては「一気に日本のエンジニアのレベルを超えてやる」と密かに思っています(笑)。でも、うちの日本、なかなか手強いのです(笑)。実際、たまに東京に帰ると、「ああ、ここは安心感あるなあ」と全身がリラックスする自分がいますし。

もう一つは、日本の優れたエンジニアなら必ず持っている「エンジニア魂」の醸成。わからないことを自分で調べ、工夫を凝らし、美しく動作させる。この意識を植え付けることを重要視しています。 ここができると、心の底から、切磋琢磨の状況が生まれると思っています。私個人としても、ベトナムに、「お、こいつマジですげえ」というエンジニアを一人でも多く輩出したいです。それが私自身ならびに会社全体のレベルアップにつながりますから。

ムロドーでは、「インド新聞」というメディアサイトも運営しています。仕組みとしては、インドの通信社からニュースを買って、それを日本語に翻訳し、日本国内や海外駐在の日本人に、日本語でインドのビジネス情報を配信するというものです。

無料版と有料版があり、収益源としては有料版の会費収益と、法人向けのレポート販売など。また、インド国内のマーケットリサーチに強い会社と提携して、市場調査等の支援も行っています。2008年にリリースしてから順調に成長して、日経やYahoo!ニュースへも配信しています。今や日本国内で一番のインド情報メディアだと思います。

実は、ベトナム法人設立とほぼ同じタイミングで、前述のマーケットリサーチ会社と合弁でデリーに拠点を設置しました。すでに、インド国内企業がインド国内で展開するWebサービスの開発も受注して、現在ベトナムと東京で開発中です。

まあでも、日本がどう、ベトナムがどう、インドがどう、という意識はないですね。変化に対応しつつ、しっかりした本質的な仕事をできる会社にしか存在価値はない、くらいにしか思っていないです。

5:メッセージ
仕事についての意識を変えたい。仕事は楽しくやろう。

当社の理念は「情報の再発見と流通」とちょっと壮大になっていますが(笑)、現実的に心かげていることとしては、自律した仕事人にとって居心地の良い会社でありたいということです。

出勤は、各自の裁量に任される部分が大きいです。集中したいので自宅で作業する、子供の面倒を見るので昼からくる、などはフレキシブルです。そのかわり、自分が担当したプロジェクトでは必ず成果を出す、他のプロジェクトが大変なときは助ける、といったスタンスです。

仕事も各自が自分の判断で考えて、行動するようにしています。実はベトナム進出も社長と社員が視察旅行に参加したのがキッカケで、その場でベトナムに進出しようと決断して、二回目に渡航した際にはすでに採用面接も始めていました。オフィスも現地法人もない会社に、よく面接に来てくれたものだと思いますが、即日内定を出しました。

そのくらい自由でかつスピーディーに仕事を進めています。

当社には、エンジニアだけではなく、UIデザイナーや企画マンもいます。意外に少ないんですよ、「システム開発がしっかりできて、かつ、UIやサービスそのものの相談にも乗ってくれる」という会社が。ですので、お客様からは漠然とした相談を受けることが多いですね。「EC事業の責任者になったんだけど、3年で売上を倍増しろと言われて・・」といった感じです。その段階から一緒になって考え、場合によってはシステムに手を入れることもあるし、デザインを刷新するだけのこともあるし、何かしらのスマフォアプリを作ることもあるし、というスタイルです。私はエンジニアなので技術陣を中心に見ていますが、エンジニアもデザイナーも営業も企画マンも、常に自己研鑽が大切ですね。もっと上のレベルを目指して常に努力している人は、着実に伸びますし、お客様への価値をきちんと出しています。

起業するというのも同じことで、常に自己研鑽して、お客様への価値を出していくことが必要です。どんな仕事でも当たり前ですね。我々もまだまだ甘いので、これからも努力を続けますし、より素晴らしい価値が提供できるように、新しいことにも挑戦し続けていきたいと思っています。

我々はまだ、社会に対して本質的な仕事を何もできていませんから。