日本公庫の創業計画書【創業の動機】欄の良い例・悪い例
創業計画書とは、新たな事業をはじめる際に作成するビジネスプランをまとめた計画書です。
大きく分けて8つの記載項目がありますが、そのなかでも、とくに重要な項目のひとつが「創業の動機」欄です。
この項目では、事業をはじめるに至った背景や理由を明確にし、ビジネスの意義や将来の展望を示すことが求められます。
当記事では、日本政策金融公庫の創業計画書における「創業の動機」の書き方と記入例についてくわしく解説します。
創業の動機を正しく記述することは、資金獲得のための重要な戦略となるだけでなく、自身のビジネスの方向性を明確にするためにも必要です。
当記事を参考にして、「創業の動機」を書く際のポイントを押さえましょう。
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元日本政策金融公庫の融資課長として5000名以上の起業家を支援した上野アドバイザー。現在は、資金調達の専門家として活躍されております。融資を検討されている方はぜひご相談ください。
著書「事業計画書は1枚にまとめなさい」「起業は1冊のノートから始めなさい」など。
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目次
創業計画書「創業の動機」に書くべきこと
創業計画書とは、新たにはじめる事業についての内容や利益見込みなどをまとめた計画書です。創業計画書が新規事業をはじめる際に必要な情報をまとめたものであるのに対し、一般的な事業計画書は既存事業の計画をまとめたものになります。つまり、創業計画書とは、創業時に作成する事業計画書になります。
「創業の動機」では、なぜその事業をはじめるのかを明確に記載する必要があります。市場の需要やトレンドの変化、自身の経験やスキル、地域の課題への取り組みなど、具体的な要素を挙げることが有効です。
また、創業の動機は熱意も伝わるように記載することが重要です。自身の情熱やビジョン、事業の目的や価値観を明確に示し、その事業を通じて何を実現したいのかを伝えることが求められます。熱意を伝えるためには、自身のストーリーや背景、なぜその事業に情熱を注ぐのかを具体的に語ることが有効です。
「創業の動機」に必要な4つの要素
「創業の動機」を記載するうえでの、具体的な考え方について説明します。「創業の動機」は、新たに事業をはじめる際の動機や目的を記述する項目です。資金調達を成功させるために、次の4つの要素を入れ込むとよいでしょう。
①なぜ今、創業したいのか
大半の方は、何年もその事業で経験を積み、熟慮のうえで開業を決意しているでしょう。また、計画的に資金を集め、将来の開業に向けて、準備を進めてきたはずです。そこで非常に重要となるのが、「なぜ今創業するのか」ということです。
自分が「今創業すべきだ」と感じた理由を、しっかりと融資担当者に伝える必要があります。「近年業界の需要が高まってきたから」とか、「世の中の景気回復が進んできたから」といった社会情勢だけでは、創業を決意した理由としては弱いと判断されてしまいます。
「希望どおりの土地や物件に空きが出て、借りられることになった」
「修業を終え、勤めていた会社を辞められるタイミングが訪れた」
「目標としていた自己資金額に到達した」
など、さまざまな要素が組み合わさり、創業を決意される方が多いのではないでしょうか。
このように今創業したい理由を、しっかりと自分自身が理解して、文書にまとめなければなりません。「創業の動機」として記載することは、融資や今後のビジネス展開においても非常に重要です。
②新規事業に過去の経験が生かせるか
新たに行う事業の経験やスキルをすでに持っていることは、その分野において、ほかの人よりも優位性を持つことにつながります。たとえば、飲食業界での経験がある人がレストランを開業する場合、料理や接客などの知識や経験を
生かすことができます。これにより、競争力のあるサービスや商品を提供することが可能となり、成功への道が開けるのです。
しかし、過去の経験があるからといって必ずしも成功するわけではありません。創業計画書では、具体的にその経験をどのように生かすのか、どのような付加価値を提供するのかを明示する必要があります。過去の経験があるからといって、ただ単に同じような事業をはじめるだけではいけません。ほかの事業との差別化や、顧客のニーズに合ったサービスや商品の提供が求められます。
また、過去に同業種の経験がない場合でも、新たな事業にチャレンジすることは十分に可能です。その場合は、ほかの分野で培ったスキルや知識を生かすことができるか、新たな分野において学ぶ意欲や情熱を持っているかが重要となります。創業の動機には、自身の成長や挑戦への意欲、市場のニーズに対する考え方なども含まれます。
③社会にどのような影響を与えるか
事業計画を考える際には、まず事業の目的やビジョンを明確にすることが必要です。たとえば、新しい商品やサービスを提供することで、社会問題の解決を目指している場合もあるでしょう。その場合には、商品やサービスが、どのように社会に貢献できるのかを具体的に説明する必要があります。
また、社会への影響を評価するためには、市場や競合状況を分析し、自社の事業がどのようなニーズや課題に応えることができるのかを明確にすることも重要です。社会のニーズに対して適切な解決策を提供することができれば、事業が成功する可能性は高まります。
さらに、社会への影響を考える際には、CSR(企業の社会的責任)やSDGs(持続可能な開発目標)にも注目することが重要です。自社の事業がこれらの取り組みにどのように貢献するのかを明確にすることで、社会的な価値を高めることができます。
④家族や周囲の理解が得られているか
家族や周囲の理解が得られているかどうかは、創業計画の成功に大きく関わってきます。なぜなら、創業は時間やエネルギーを大きく要するものであり、家族や周囲の支援がなければ、困難を乗り越えることは難しいからです。
家族の理解が得られているかどうかは、経済的な面だけでなく、精神的な面でも重要です。創業はリスクを伴うものであり、成功するまでの間は収入が不安定になることもあります。そのような状況下で家族が理解を示し、支えてくれることは非常に励みになります。
また、周囲の人々の理解も重要です。創業は単独で行うものではなく、パートナーやスタッフ、取引先などさまざまな関係者との協力が必要となります。周囲の人々が創業の意義や目標を理解し、共感してくれることは、協力体制を築くうえで非常に有益です。
家族や周囲の理解を得るためには、十分な説明やコミュニケーションが必要です。自分の思いやビジョンを明確に伝え、創業の動機や目的を共有することも重要となります。また、リスクや困難についても率直に話し合い、理解を深める努力も必要となるでしょう。
創業の動機には、家族や周囲の理解が得られていることを具体的に記載します。たとえば、家族との話し合いの結果、共感や支援を得られた、などと述べるとよいでしょう。また、周囲の人々からの、反応や協力の具体的な例も挙げることで、創業計画の信頼性を高めることができます。
「創業の動機」の書き方(成功者の声)
「創業の動機」は、創業計画書のなかでも重要な項目です。この部分をしっかりと書くことが、融資の成功につながるポイントとなります。とくに、競争の激しい市場で成功するためには、独自の魅力や差別化ポイントを持つことが重要です。説得力のある「創業の動機」を書くうえで、成功者の声は非常に参考になります。
飲食業
飲食業界で成功した起業家たちは、自身の経験や情熱を背景に事業をスタートさせたという共通点を持っています。彼らは、自分の料理やサービスを通じてお客様に感動を与えたいという強い想いを持っています。
たとえば、ある成功者は自身の地元に美味しい料理を提供することで、地域の活性化に貢献したいという思いが創業の動機となりました。また、別の成功者は、自分が子どものころから憧れていたフレンチレストランを開業することで、自分の夢を実現したいという思いから事業をはじめました。
成功者たちの声から学べることは、創業の動機は単なる利益追求だけではないということです。自身の情熱や、信念に基づいていることが重要となっています。飲食業は競争が激しい分野ですが、自身の熱い思いや独自のコンセプトがあれば、お客様に魅力的な価値を提供できます。
ただし、「創業の動機」を書く際には、成功者の声を参考にしながらも、自身の経験や背景に即した内容を書くことが重要です。ほかの人と同じような理由や動機ではなく、自分ならではの独自性を打ち出すことが必要です。
また、創業の動機を書く際には、具体的な目標やビジョンを示すことも重要です。たとえば、5年後に地域No.1の人気店を目指す、特定の食材を使用したメニューの提供といった明確な目標を示すことで、信頼性や実現可能性をアピールできます。
IT業
IT業界も競争が激しく、成功するためには独自性やユーザーのニーズに合ったサービスを提供する必要があります。
成功者の声としてよく挙げられるのは、自身の経験やスキルを生かしたいという思いです。たとえば、過去にIT企業で働いていた人が独立し、自分のアイデアや技術を活用して新しいビジネスを立ち上げるというケースです。
また、市場のニーズを感じたことが創業の動機になる場合もあります。たとえば、新しいテクノロジーやサービスが登場し、それに対する需要が高まっている場合、その需要を満たすために創業するという動機が生まれます。
さらに、社会的な課題に対して解決策を提供したいという思いも創業の動機として挙げられます。たとえば、ITを活用して環境問題や医療の課題を解決するためのサービスを提供したいという思いがあります。
成功者たちは、創業の動機を明確にし、それを創業計画書にうまく表現することで、投資家や金融機関からの支援を受けることができました。創業の動機は、自身の情熱やビジョンを伝える重要な要素であり、成功するためには具体的かつ魅力的な内容を盛りこむことが重要です。
そのほか(美容室)
まず、創業の動機は具体的かつ明確であるべきです。ただ「美容室を開業したい」というだけではなく、なぜ美容室を開業するのかを明確に示すことが重要です。たとえば、「長年の美容師としての経験を生かし、お客様に最高のサービスを提供したい」というように、自身の経験やスキルと関連がある目的を示しましょう。
また、創業の動機には独自性や差別化の要素を盛りこむことも大切です。競争の激しい美容業界で成功するためには、ほかの美容室との差別化が必要です。たとえば、「地域にはまだない新しいトレンドを取り入れたサービスを提供し、お客様に驚きと感動を与えたい」というように、ほかとは異なる魅力をアピールしましょう。
さらに、創業の動機には市場の需要やトレンドを考慮することも重要です。美容室という事業は、お客様の美容や健康に関わるものであり、需要の高い市場であることを示す必要があります。たとえば、「美容意識の高まりにともない、美容業界は成長が見こまれる。そのなかでも、とくに男性向けの美容サービスに注力し需要の拡大を狙いたい」というように、市場の需要やトレンドを分析し、自身のサービスが求められる理由を示しましょう。
公庫が紹介する「創業の動機」記入の参考例
日本政策金融公庫の公式ホームページでは、創業計画書の記入例が公開されています。下記に業界ごとの「創業の動機」記入例を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
参考:日本政策金融公庫「各種書式ダウンロード(国民生活事業)」
洋風居酒屋の例
洋風居酒屋を選んだ理由や、ほかの居酒屋との差別化ポイントを明確に示すことが重要です。たとえば、地域に洋風料理の需要が高まっている、ほかの居酒屋にはない特長的なメニューやサービスを提供するなど、自分のアイデアや個性をアピールしましょう。
介護サービスの例
介護サービスを選んだ理由や、地域の需要や問題に対する意識を示すことが重要です。高齢化社会において介護サービスの需要が増えている、地域の介護施設の数が不足しているなど、現状の問題やニーズに対して解決策を提案しましょう。
美容業の例
美容業を選んだ理由や、自分のスキルや経験を示すことが重要です。美容に対する情熱や顧客満足を追求する姿勢をアピールしましょう。また、美容業界のトレンドや需要の高まりを示すことも効果的です。
婦人服・子供服小売業の例
この業界で成功するためには、ほかの店舗との差別化や顧客の需要に対する理解が重要です。地域の需要やトレンドに合わせた商品展開、優れた顧客サービスを提供することを強調しましょう。
ソフトウェア開発業の例
ソフトウェア開発業界は、技術やアイデアの差別化が求められます。自身の専門知識や経験、新しい技術やサービスに対する熱意を示すことが重要です。また、市場の需要や競合状況についても分析し、自社の強みをアピールしましょう。
「創業の動機」良い例
「創業の動機」の良い例として、以下のようなものが挙げられます。
●準備してきたことが具体的に説明できており、その根拠が明確である。
●店舗や設備などの物理的な準備だけでなく、収益性の高い事業であることの根拠も情報収集や市場分析など客観的な方法を基に示している。
例)
独立を目指してカフェで8年間勤務し、昨年バリスタの資格が取れたのと、叔父が所有物件で営んでいた居酒屋をたたむので居抜きで譲り受けることができることとなった。付近に大学があるが飲食店が少ないため、学生の憩いの場として落ち着いた雰囲気の本とコーヒーを楽しめるカフェを提供したいと考えた。妻が作る軽食も提供することで客単価のアップと夫婦二人三脚での経営を目指したい。
たとえば、創業者が新しいカフェを開業する場合を考えてみましょう。創業の動機としては、「地域にはまだカフェが少なく、需要がある」などが挙げられます。この場合、具体的な根拠として、近隣の住民アンケートや市場調査の結果を示すと信頼性が高まります。また、競合店舗の分析や需要予測もおこなっていることを示すとよいでしょう。
物理的な準備についても具体的に説明することが大切です。具体的な店舗の場所や内装、設備について詳細な計画を示すことで、創業計画書の信ぴょう性を高めることができます。カフェの場合は、予定している店舗の場所や面積、内装のデザインや機器の選定などを具体的に記述するとよいでしょう。
また、経営者自身の専門知識や経験、提供する商品やサービスの特徴なども具体的に記述するとよいでしょう。
「創業の動機」悪い例
「創業の動機」の悪い例として、以下のようなものが挙げられます。
●どの程度準備してきたのかがわからない
●過去の実績や経験がどのように役立つのかわからない
●事業としての現実味にかけており収益性のある事業が期待できない
●動機がネガティブである
例)
今勤めている会社は残業が多く自分の自由な時間が少ないため、独立して自由に働きたい。コーヒーを飲むのが好きで、毎日飲んでいるので、こだわりの豆を輸入して自家焙煎のカフェを開きたいと思います。
まず、どの程度準備してきたのかがわからないという点は、信頼性に欠ける要素です。創業計画書では、具体的な準備内容や調査結果、市場分析などを示すことが重要です。これによって、事業の実現可能性や成功の可能性を示すことができます。
次に、過去の実績や経験がどのように役立つのかわからないという点です。創業計画書では、創業者の経歴や業界での経験、専門知識などを示すことが重要です。これによって、事業の信頼性や競争力を高めることができます。
また、事業としての現実味にかけており、収益性が期待できないと判断されれば、融資は難しいでしょう。創業計画書では、市場の需要や競合状況、収益見こみなどを具体的に示すことが求められます。これによって、事業の成長性や収益性を評価できます。
創業計画書の作成にはツールを活用しよう
創業計画書に記入すべき項目は多岐にわたるため、ツールを利用しながら順序だてて作成していくことをおすすめします。たとえば、ドリームゲートの事業計画書作成サポートツールを使ってみましょう。
ドリームゲートの事業計画書作成サポートツールは、創業計画書の作成をサポートするための便利なツールです。このツールを使うことで、必要な項目をしっかりと確認しながら計画書を作成できます。
創業計画書の作成には時間と労力がかかりますが、ツールの活用で効率よく作業を進めることができます。自分のビジネスの将来を見据え、成功に向けた計画を立てるために、ツールを上手に活用しましょう。
元日本政策金融公庫の融資課長として5000名以上の起業家を支援した上野アドバイザー。現在は、資金調達の専門家として活躍されております。融資を検討されている方はぜひご相談ください。
著書「事業計画書は1枚にまとめなさい」「起業は1冊のノートから始めなさい」など。
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