日本政策金融公庫の融資の流れを徹底解説【公庫の元融資課長が監修】
日本政策金融公庫の創業融資の審査・決定には一定の時間がかかるだけでなく、その流れを理解して、事業のスタートに間に合わせる必要があります。
また、許認可が必要となる事業を行う場合には、その取得のスケジュールについても検討できていないと、タイムリーに融資を受けられません。
そのため、これらの準備をせずに無計画に融資を申し込んだ場合には
「何度も手続きや書類の提出が必要となり時間がかかる」
「オープン予定日に営業が間に合わない」
ということになりかねません。
また、このような後手後手の対応は融資審査にも悪影響を及ぼします。
当記事では、日本政策金融公庫の創業融資を申込む場合の融資の流れや、必要書類の準備、許認可との関係などについて解説いたします。これを読めば融資の流れをしっかり把握し、準備に挑めるでしょう。
元日本政策金融公庫の融資課長として5000名以上の起業家を支援した上野アドバイザー。現在は、資金調達の専門家として活躍されております。融資を検討されている方はぜひご相談ください。
著書「事業計画書は1枚にまとめなさい」「起業は1冊のノートから始めなさい」など。
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目次
日本政策金融公庫の融資
創業融資では、融資申込みから融資実行(資金の入金)まで、最短1ヵ月程度、長い場合には2ヵ月以上の時間がかかる場合もあります。また、これ以外に創業計画書を作成する時間も必要となるため、トータルでは3ヵ月程度の時間がかかることも珍しくありません。そのため、融資の申込みはこれらの期間を見積もったうえで、オープン日に間に合うよう準備する必要があります。
なお、創業者の方が無担保・無保証、低金利で利用できる日本政策金融公庫の融資制度としては、以下のものがあります。
【新創業融資制度】
利用条件 |
・新たに事業をはじめる方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方
・新たに事業をはじめる方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方については、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できること |
資金使途 | 事業開始後に必要とする設備資金および運転資金 |
融資限度額 | 3,000万円(うち運転資金1,500万円) |
返済期間 | 各融資制度に定める返済期間以内 |
利率 | 2.40~3.50% ※令和5年9月時点の基準利率 |
担保・保証人 | 原則不要
法人による申込みの場合は、代表者の連帯保証も不要 |
日本政策金融公庫の融資申込み流れ(自身で行う場合)
ここでは、公庫の融資申込を自分でインターネットにて行う場合の流れについて説明します。
参考:https://www.jfc.go.jp/n/finance/flow/tetsudukij_c.html
①インターネットによる相談(オンライン面談の予約と相談)
融資申込みの前には、電話や支店への訪問により、手続きなどに関する相談をすることができます。相談は申込みに必ず必要なものではありませんが、支店により微妙に手続きに違いがあるため、できるだけ利用することをおすすめします。
ただし、相談は予約制となっているため、事前に下記サイトから予約をしておく必要があります。
【オンライン相談】https://www.jfc.go.jp/n/service/heijitsu_soudan.html
②融資の申込みと必要書類の提出
融資の申込みは、創業予定地を管轄する公庫の支店に対しておこないます。
https://www.jfc.go.jp/n/branch/pdf/tenpo01.pdf
なお、インターネットによる申込みは、以下のサイトから24時間365日、行うことができます。
【インターネット申込み】
https://www.jfc.go.jp/n/service/apply.html
申込みの際には、以下の書類を準備・提出します。
【必要書類(創業融資)】
- 創業計画書
- 設備資金の申込みの場合は見積書
- 履歴事項全部証明書または登記簿謄本(法人の場合)
- 担保の利用を希望の場合は、不動産の登記簿謄本または登記事項証明書
- 生活衛生関係の事業を営む方は、都道府県知事の「推せん書」(借入申込金額が500万円以下の場合は不要)または、生活衛生同業組合の「振興事業に係る資金証明書」
- 運転免許証(両面)またはパスポート(顔写真のページおよび現住所などの記載のあるページ)のコピー
- 許認可証のコピー(飲食店などの許可・届出などが必要な事業を営んでいる方)
※郵送による申込手続きによる場合は、上記資料とあわせて「借入申込書(国民生活事業用)」の提出が必要となります。
③面談
融資申込みから1週間~10日後に、公庫担当者との面談がおこなわれます。
通常、面談は公庫の支店でおこないますが、ケースによっては申込人の事務所でおこなうこともあります。
面談では、事業計画書の内容にもとづいて各種の確認がおこなわれます。そのため、「計画に書いてあるにもかかわらず答えられない」、「計画の内容と違った説明をする」などがあるとマイナス評価の対象となってしまいます。計画の内容をしっかりと頭のなかに入れておくことが必要です。
とくに、事業計画書の作成を他者にサポートを依頼しているケースでは、本人が基本的なことも回答できない場合があります。自分自身でもしっかり説明できるように、内容を理解しておくことが必須となるでしょう。
また、事業計画書のなかでも、とくに売り上げや収支に関する部分は重要です。「なぜ、その売上げを立てることができるといえるのか?」、「予定した利益で問題なく返済ができるのか?」について説得力ある根拠が求められます。担当者の理解を得られる資料の提示や説明ができるようにしておきましょう。
なお、「事業計画書の作成に不安がある」、「計画のポイントがわからない」という場合には、ドリームゲートが提供している「事業計画作成サポートツール」が役立ちます。代表的な業種ごとに計画作成のポイントを紹介しているので、自身の計画作成の参考としてください。
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④融資審査の連絡
面談終了後から1週間~10日後に、公庫から融資の審査に関する連絡がされます。決定の連絡は、原則、手紙でおこなわれますが、電話がかかってくることもあります。
日本政策金融公庫の融資申込み流れ(認定支援機関と行う場合)
通常の公庫融資の利用では必須ではないですが、「中小企業経営力強化資金」を利用する場合には必ず認定経営革新等支援機関のサポートが必要となります。そのため、この融資制度を利用するときには、事前の認定支援機関との調整や打ち合わせが不可欠となります。
①認定経営革新等支援機関へ相談
「中小企業経営力強化資金」を利用する場合には、必ず認定経営革新等支援機関(認定支援機関)との打ち合わせやスケジュールの調整をしておく必要があります。認定支援機関は、無料で相談可能な場合も、相談料が必要となる場合もあるため、この点については事前に確認しておきましょう。
なお、認定支援機関は、以下のサイトで検索することができます。
認定経営革新等支援機関検索システム:
https://www.ninteishien.go.jp/NSK_CertificationArea
※新規開業資金(中小企業経営力強化関連)とは?
新たに事業をはじめる方または事業開始後おおむね7年以内の方のうち、「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」を適用しているまたは適用する予定の方であって、自ら事業計画書の策定をおこない、中小企業等経営強化法に定める認定経営革新等支援機関による指導および助言を受けている方を対象とした融資制度です。通常の融資制度より優遇された特別利率(1.70~2.80%)を利用することができます。
②必要書類を一緒に作成
新規開業資金(中小企業経営力強化関連)の申込みでは、自ら事業計画書の策定をおこない、中小企業等経営強化法に定める認定支援機関による指導および助言を受けることが要件となっています。そのため、事業計画書の策定については本人だけがおこなうのではなく、認定支援機関と協力しておこなうことが必要です。また、作成した計画について認定支援機関の承認を受ける必要もあります。
③提出書類を認定支援機関が公庫に提出
事業計画書の作成が完了したときには、提出書類を認定支援機関から公庫に提出します。なお、認定支援機関に主要金融機関が含まれない場合は、事業者または認定支援機関が、主要金融機関が経営改善計画策定支援について協力することの確認書面を取得し、経営改善支援センターに提出する必要があります。
④面談(認定支援機関の同席も可)
通常の融資の場合と同様、認定支援機関の支援を受けている場合でも公庫担当者との面談は必須となります。しかし、あらかじめ、公庫の同意を取得していれば、認定支援機関を同席させることが可能です。面談に不安があるという場合には、支援機関に同席してもらいサポートを受けるとよいでしょう。
⑤融資決定
面談終了から1週間~10日後に、公庫から融資の審査に関する連絡がおこなわれます。決定の連絡は、原則、手紙でおこなわれますが、電話がかかってくることもあります。
融資決定後の流れ
融資審査で申込みが承認された場合は、決定の連絡後約1~2週間以内に公庫と融資に関する契約を(金銭消費貸借契約)を締結します。その際には、同封された書類(借用証書(契約書)や口座振替届、個人情報取り扱い同意書など)に記入・押印し、必要書類を返送または持参します。
融資決定後の必要書類(例)
- 収入印紙
- 印鑑証明書
- 送金先口座の預金通帳
- 返済用口座の預金通帳
金銭消費貸借の契約書にはその金額に応じて印紙税がかかります。間違いがないように金額を確認しておきましょう。なお、印紙代は全額申込人の負担となります。
送金先口座の預金通帳と返済用口座の通帳は同じでなくても構いません。また、法人口座だけでなく代表者の個人口座を使うことも可能です。
返済開始
融資の実行がされたときは、原則としてその翌月から決められた元本・金利の返済をおこないます。ただし、あらかじめ元金の据え置きを希望し、それが承認されている場合には、その期間については利息のみを支払うことができます。
なお、金融機関への返済が1~3ヵ月以上滞った場合には、「事故扱い」となることがあります。事故扱いとなった場合には、期限の利益の喪失(返済の分割が認められず、全額の返済を求められる)、信用情報機関への登録、延滞金の発生、追加融資の不可など、非常に多くのデメリットを生じてしまいます。できるだけ延滞を発生させないように管理しましょう。
審査に通過するための4つのポイント
創業融資の審査を通過させるポイントとしては、以下のものがあります。
1.条件に合った融資を選ぶ
公庫では、申込人の状況にあわせて数多くの融資制度を用意しています。そのため、創業者では利用できない融資制度や、特典の恩恵を受けられないものもあります。自分の状況で利用できるものを選ぶことが必要です。
創業者に有利な条件で利用できる融資制度としては、以下のようなものがあります。
新規開業資金
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html
新たに事業をはじめる方または事業開始後おおむね7年以内の方が利用できます。設備資金と運転資金の両方に対応しており、融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)となります。一定の要件に該当する場合には特別に有利な金利が適用されます。原則、担保もしくは保証人が必要となりますが、新創業融資制度と併用することで無担保無保証人とすることが可能です。
新創業融資制度
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/04_shinsogyo_m.html
新たに事業をはじめる方、または事業開始後で税務申告を2期終えていない方向けの融資制度です。ほかの融資と併用することで、その融資を無担保無保証人で利用することができるようになります。融資限度額は3,000万円(うち運転資金1,500万円)ですが、利用にあたっては自己資金の要件を満たす必要があります。
新事業活動促進資金
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/04_sjkakushin_m.html
「経営革新計画」や「基盤確立事業実施計画」の承認を受けた方などの一定の要件を満たす方が利用できる融資制度です。設備資金と運転資金の両方に対応しており、融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)となります。一定の要件に該当する場合には、有利な特別金利が適用されます。原則、担保もしくは保証人が必要となりますが、新創業融資制度と併用することで無担保無保証人とすることができます。
資本性ローン
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/57.html
新規開業資金、新事業活動促進資金など一定の融資を利用する方で、「地域経済活性化にかかる事業をおこなうこと」、「税務申告を1期以上おこなっている場合、原則として所得税などを完納していること」などの要件を満たす方が利用できる融資制度です。融資限度額7,200万円(別枠)となっており、無担保、無保証人で利用することができますが、申込みには一定の要件があります。
2.説得力のある事業計画書を作成する
事業計画書の評価は、いかにその内容に信ぴょう性や、実現可能性があるかを中心におこなわれます。したがって、単に項目を埋めただけの内容や、実現可能性が低い計画などの場合には、大幅な減額もしくは融資の否決ということになってしまいます。
説得力のある事業計画書をつくるために重要となるポイントは、以下の通りとなります。
- 計画のなかで、売上の根拠がしっかりと説明できていること。
- 融資返済に必要な資金(返済原資)が毎月、確保できる計画となっていること。
- ビジネスとして成り立つプランやしくみ(仕入れ先や製造元の確保、必要な場所や従業員の確保、運転資金の確保など)ができていること
- 事業を行なうために必要な許認可などの取得ができていること
3. ローンや税金の遅延や滞納をしない
融資の審査においては、過去の各種の支払い状況が厳しく審査されます。そのため、家賃・公共料金・住民税・住宅の固定資産税、ローンの返済などについて、直近6ヵ月~1年の間に遅れや未納がある場合には、融資を受けることが難しくなります。
よくある遅れの理由として「入金はしていたが、支払いが予定外に多かったので月末の引き落しに残高が足りなくなった」などがあります。しかし、このような言い訳は通用しないため、常日頃から資金管理をし、遅れや未納が発生しないようにする必要があります。また、見落とされやすいですが、スマートフォン本体の料金を分割払いにしている場合の滞納も対象となるため注意してください。
4.自己資金をできるだけ貯める
新創業融資制度を利用する場合には「創業にかかる経費の1/10以上の自己資金が必要」とされています。しかし、これはあくまでも新創業融資制度を利用するために必要な最低条件です。1/10以上の自己資金があれば、十分な融資が受けられるとは限りません。
申込額にもよりますが、一般的にスムーズに希望額どおりの融資を受けるには30%程度の自己資金が必要とされています。つまり、全体で1,000万円の経費がかかる計画であれば300万円以上の自己資金が必要ということになります。
そのため、ある程度金額が大きい融資を申込む場合には、この割合を目安として、少しでも多くの自己資金を貯めておいたほうがよいといえます。
融資申請と許認可スケジュールの関係
融資の申込みにおいて、気をつけなければならないことのひとつに「許認可の申請タイミング」があります。
建設業などのように、特定の許認可が必要な事業については、これらの許認可が取得できていなければ、その間融資は実行されません。また、飲食店の営業許可については、例外的に許可が取得できていなくても融資が実行される取扱いとなっています。しかし、この場合でも営業許可取得ができていなければ、営業を開始することができません。
そのため、融資の申込みをするときには、それだけに注意するのではなく、許認可取得のスケジュールにも配慮する必要があります。たとえば、令和5年12月から建設業の開始をする場合には、建設業の許可の取得までに2~3ヵ月、融資申込~実行まで1~1.5ヵ月の時間がかかることを考え、これを計算に入れた上でスケジュールをつくる必要があります。
- 8月上旬 建設業の許可申請
- 10月上旬 融資申込
- 11月上旬 建設業の許可取得見込み
- 11月中旬 融資実行
- 11月下旬 営業準備(内装、採用、資材準備など)
- 12月上~中旬 営業開始
融資に必要な事業計画書はツールで作成
創業融資は、通常の融資と異なる部分が多くなっています。特別な要件が存在する場合もあるので、計画の作成前から手続きの流れや必要書類を確認し、準備することが重要となります。
とくに事業計画書については、今後の収支の見込みがどうなっているかが重視されます。そのなかでも「売り上げをどうやって確保するのか?」、「返済ができる利益を継続して生み出すことはできるのか?」については計画の胆となるため、金融機関を十分に納得させるだけの根拠やエビデンスが必要となります。また、許認可が必要な事業では、融資だけでなく、この取得を含めたスケジュールをつくることが必要です。
「計画の作成に自信がない」、「自分の業種に関するよい資料が見つからない」という場合には、ドリームゲートの事業計画作成サポートツールの利用をご検討ください。事業計画作成サポートツールでは、ドリームゲートが独自に調査した結果と、あなたが作成した事業計画とを比較・判定することができます。また、対応している業種も飲食業や小売業をはじめ、全12業種もあるため、あなたにぴったりのものを選ぶことができます。
事業計画作成サポートツールは、無料の会員登録をするだけですぐに利用可能です。これから事業計画書を作成するという方はぜひご活用ください。
- 累計8万人が利用!質問に答えるだけで「事業計画書・数値計画書」が完成
- 日本政策金融公庫の創業計画書も作成でき、融資申請に利用できる
- 12業種・4188社の経営者と比較し、あなたの事業計画の安全率を判定
元日本政策金融公庫の融資課長として5000名以上の起業家を支援した上野アドバイザー。現在は、資金調達の専門家として活躍されております。融資を検討されている方はぜひご相談ください。
著書「事業計画書は1枚にまとめなさい」「起業は1冊のノートから始めなさい」など。
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