“ギャップ率” 起業前の計画と起業後1年目の売上を比較

公開日: 2015/03/15  最終更新日: 2015/03/16

黒字化企業の半数以上が計画値を下回る

安全率に続いて、“ギャップ率”というキーワードも覚えていだきたい。これは、起業・開業前に計画していた売上と、実際の1年目の売上を比較し、達成度を指数化したものだ。

2013年4月に1501人の起業家にアンケート調査を行った。その結果、現在黒字化しており順調な経営をしている企業を抽出して調べたところ、開業1年目で実際の売上が計画を下回ったのは55.8%と過半数を超えた。また、計画どおりだったと答えたのは22.2%、計画を上回ったと回答したのは22.0%だった。さらに計画を下回ったと回答した企業の平均ギャップ率は45.8ポイントとなった。

つまり、現在経営が順調な企業においても、開業1年目は半数以上が当初の事業計画以下の売上で、しかも売上が実際には計画の半分程度と言う事になる。非常に厳しい結果だ。

だれしも思いどおりにはいかない。まずは事業計画を精緻に作ろう、そして“ワーストシナリオ”を想定しよう

下図で示したように、現在黒字化して上手くいっている企業においても、1年目で計画どおりか、計画を上回る売上を達成したのは少数派だ。開業して1年目では、計画どおりに売上を立てることが難しいかおわかりだろう。



起業前に作る事業計画では上手くいった場合しか考えないことが多い。過去の成功体験や楽観的予測に基づいた“ハッピーストーリー”になりがちだが、現実はそのようなものではなく、計画の半分程度という非常に厳しい現実がある。

業種によっては精緻な事業計画を作らずに開業に臨む事もあるだろう。初期投資をほとんどかけないビジネスなどがそうだ。例えば、フリーランス系のビジネスや1人でネットショップをやる場合、自宅を事務所にして、私物のパソコンなどで気軽にはじめるというケースでは、開業時に融資などを申し込んだりしないため、事業計画書を作成して提出を求められる事がない。必然性がないため、計画書を作らないまま、あるいは簡易な見通し程度の計画書を作成するだけといった具合だ。

しかし、事業計画書というのは、まず自分を守るために作成するものだと考えてほしい。開業したビジネスで生計を立てる以上、甘い見通しゆえに思うような収入が得られず、窮地に陥るのは他ならぬ起業家自身だ。第三者から出資を求める際に提出するような数十ページにもなる詳細な事業計画書では一般的に3つのシナリオを要求される。

すべてが順調にいったケースを想定したベストシナリオと、考えうる最悪のケースを想定したワーストシナリオ、そしてその中間程度のベースシナリオだ。

これから起業する方には、事業が計画どおりにいかない事も想定したワーストシナリオも用意して欲しい。

ギャップ率が低いほど安全率は高い。つまり、事業計画が精緻な起業家ほど健全経営を行っている

次の図は、ギャップ率を25ポイント刻み(0-25、25-50、50-75、75-100)という4つのグループに分けて安全率を抽出・比較したものだ。アンケート調査の結果、黒字化企業の平均安全率は4.83ポイント以上となったため、安全率4.83ポイント以上を健全企業、それ未満を非健全企業と定義して、さらに分析を進めたところ、傾向として1年目の計画と現実の乖離が大きい高ギャップ率企業ほど安全率が低く、逆にギャップ率が低い企業では安全率が高いという傾向が出た。ギャップ率が0-25ポイントの企業では健全経営の比率が34%、ギャップ率が25-50ポイントの企業では28%、ギャップ率が50-75ポイントの企業では26%、ギャップ率75-100ポイントの企業では22%になっている。

現在のビジネス環境の変化は非常に早い。計画どおりにビジネスが運んでいても、いつビジネス環境が急変し、業績が悪化するかは誰にもわからない。一寸先は闇である。よって常に経営状況に注意を払っていかなければならないだろう。

悪化した業績を回復させるために、経営者はさまざまな打ち手を検討して試行錯誤をするわけだが、その試行錯誤、つまりPDCAサイクルを回せる余力がどれだけあるかで、企業の生存性が決まると言っても過言ではない。PDCAサイクルをより多くまわせる経営体力を持つこと、つまり安全率を高めておくことが必要なのだ。

会計管理を迅速に行なっている企業ほどギャップ率は低い

さらに、ギャップ率と会計管理の頻度を分析・比較した。その結果、ギャップ率が高くなるにつれて、会計頻度は少なくなるという傾向が見えた。もっとも会計頻度が高いギャップ率0-25ポイントの企業では、会計頻度が一ヶ月に一度と答えた割合が61%なのに対して、ギャップ率25-50ポイントの企業では55%、ギャップ率50-75ポイントの企業では40%、ギャップ率75-100ポイントの企業では36%まで低下している。この事からも、高い頻度で会計管理を行っているほど、ギャップ率が低い、つまり計画と実際の差が小さくなっている。

迅速な会計管理は生き残る秘訣である

会計管理とは、会社経営のスピードメーターと考えてほしい。若葉マークのドライバー(=起業家であるあなた)がいきなり公道に出て運転するとしよう。周囲の状況はもちろん、メーターを見ずに運転するなどあり得ないだろう。会社の経営でも同様である。常にスピードメーター=会計管理に注意し、事故にならないように最新の注意を払うべきだ。事故にあってからでは遅いのである。