個人ライターとして独立し、アウトソーシング事業で起業。東日本大震災への憂慮が、転機のきっかけを導いた。

公開日: 2015/03/16  最終更新日: 2019/11/22

ナレッジ・リンクス株式会社

代表取締役 三河 賢文

事業内容 ライター業
アウトソーシング事業
所在地 東京都葛飾区鎌倉

冒頭

ナレッジ・リンクス株式会社は、フリーランスワーカーを独自でネットワークし、企業からライティング、デザインなどの仕事を受託する事業を行っている。2010年に個人事業主として独立し、13年に法人化するまでの経緯を、代表の三河 賢文さんにうかがった。

1:Plan 学生時代に経験していたライター仕事
会社に守られているだけではいけない。家族を説得し、ライターとして独立

学生時代からライターの仕事をやっていました。大学時代にずっと部活で陸上をやっていたのですが、怪我で引退することになり、時間ができたのです。自分発信で面白い事をしてみたいと思っていたこと、また、パソコンが得意だったので、それを生かせる何かがないだろうか模索していました。そんな時に、たまたま学生ライターの仕事を紹介されたのがきっかけですね。

ただ、大学卒業後は、社会人経験が必要だと考え、まずは企業に就職しました。最初は人材ビジネス系の会社に就職し、Web制作・集客系の会社に転職しています。

2社目の会社はフル・フレックスの勤務形態で、副業もOKという会社だったので、副業申請を提出し、空き時間を使ってライターの仕事を再開しました。

しかし、しばらくして気づいたのですが、実はその会社の経営がかなり苦しかったんです。もともと独立志向もありましたし、会社に守られているだけではいけないと思い、2010年6月にフリーランスライターとして独立することに。ほとんど開業資金をかけることなく、これまで使っていたパソコンと自宅をオフィスとしてスタートしました。

独立した当初に定めた目標年商は、600万円です。多少余裕のある生活をするには、そのくらいはほしいというイメージでしたね。

しかし、クライアントが1社もないままの状態からのスタートでしたし、独立したのはまだ社会人3年目。貯蓄がたくさんあるわけでもなく、しかも結婚して妻や子どももいたので、家族を説得するのは大変でした。最終的には、「まず1年間だけやらせてくれ。難しければサラリーマンに戻るから」という条件で、何とか納得してもらったんですよ。

2:Do 予想と現実のギャップに苦しむ
想定と違った業界の状況。ライター業界の環境変化に苦戦した1年目

いざ独立してみると、ライターとして生計をたてるのが想像よりかなり厳しいことがわかりました。

ライターという職業自体の必要性が薄まっていて、極論すれば、「ライター=スペシャリスト」という前提がくずれていたように思います。

学生時代と比べ、ライターを取り巻く環境が変わっていたんですよ。元々はプロフェッショナルな文筆業をする人間を、ライター、プロライターと呼んでいましたが、最近はライティングを一度でもやったことがあれば、ライターみたいになってしまっていて……。金銭的な部分でも、以前は1万円で引き受けていた仕事が、10分の1の1000円になっていたりとか。

その要因としては、ライター未経験OKの案件が増えていていることが挙げられます。また、SEO対策のための量産型コンテンツなど、単価の安いライティング業務もたくさん出てきてしまっていたことも、ライターの市場価値を下げている大きな要因の一つだと思います。

さらに、本や雑誌も売れなくなってきていて、出版社もコスト削減に走らざるを得ず、ライターに支払う単価がどんどん下がっているんです。

結果的に、1年目の年商は450万円くらいで、なんとか食える程度は稼げましたが、とにかく、想定していたよりも環境が厳しかった。こんなに稼げないものか……というのが独立初年度の感想でした。

また、自分で営業して、自分でライティングをこなしていましたので、毎月の売り上げのアップダウンも激しかったです。書籍の仕事が何冊分かまとまった月の収入は100万円を超えることもありましたが、仕事が少ない月は10万円しかなかったり。安定しない日々が続きました。

3:Check 個人事業主から企業経営者へ
厳しい仕事は受けない。外部の税理士事務所を積極的に使う

1年目を振り返れば、仕事を増やすことを優先して、苦労の割に利益が残らないような仕事も多くやっていたので、なかなか経営状態が上向きませんでした。

そこで、自分がとった仕事を、外部のパートナーにどんどん外部へ依頼する、いわゆるアウトソーシングビジネスを開始しました。スタートしてみてすぐに、思ったよりニーズがあることがわかったので、「これはいける」と直感しました。

そのきっかけになったのは、東日本大震災です。私は仙台出身なのですが、被災した地域の中に、仕事がなくて困っている人がいるのではないかと思い、現地の知人に声をかけて、ラジオなどに出演し、アウトソーシングビジネスの話をさせてもらったんですよ。

震災で、パソコンを失った人も多かったのですが、「それでもやりたい」という人がたくさんいました。それから、ライティングとWebデザインなどの仕事を、外部へ依頼する方向に事業スタイルを転換し始めたのです。妻には、「せっかくとってきた仕事を他に依頼するなんてもったいない!」と、散々怒られましたが(笑)。

このアウトソーシングビジネスが徐々に軌道に乗り、利益も出始めました。そして、外部のアウトソーシングパートナーが100人ほどに増えたタイミングの2013年4月に、法人化しています。

お金の管理に関しては、個人事業主の時から自分で帳簿付けからやっていました。ただ、法人化するに当たって、税理士事務所にお願いすることにしました。税理士事務所には、毎月の顧問料2万円で経理業務を依頼しています。

もともと自分でやっていたので細かい数字はすべて把握できるようになっていましたが、外部とはいえ人をたくさん使い、経理処理が複雑になることから、専門家に依頼したほうがいいと判断しました。

お金の問題のトラブルで時間が取られるのが嫌いなので、税理士さんとは月にメールで10回くらいはやり取りしています。わからないことや不安なこと、変わった仕事の案件が入ったら、経理処理上はどうなるか、とにかくこまめに聞いています。

おかげさまで、資金繰りや会計上のトラブルは今のところはありませんね。もっと早く今の経理スタイルにしていればよかったと思っています。

でも、毎月領収書の束やデータを税理士さんに丸投げして、後になって「あれってなんだっけ?」となる人も多いと聞きます。それはやめたほうがいい。結局、トラブルになったら、経営者である自分の責任になるので、そうなる前に、自分で調べる、わからないことは専門家に聞く。例えば移動中のメール一本で済むんですから。経営数字を常に曖昧にしないことが重要です。

また、個人事業であれば、ある程度は自分でやるべきだと思います。私も、自分でやっておいてよかったと思っています。ただ、事業規模が大きくなって法人化するような場合は、専門家に依頼して、なおかつ、こまめに連絡はとって進めていくスタイルをお勧めしたいですね。

4:Action 俺は1年目をこうして切り抜けた
アウトソーシング事業に移行しマネジメントに注力することで、徐々に業績が安定。

アウトソーシングビジネスがうまく回り出した理由はいくつかありますが、まず自分の中で決めた最低価格以下の安価な案件は、受けないようにしました。

お客さんと実際に会って話してみた感じとか、メールのレスポンスとか、適切に返答してくれるかどうかとか、さまざまな観点でウォッチして、合わなければ断るようにしています。仕事をきちんと選んでいくようにしたことが、結果的によかったと思います。

経営が苦しい時は、安い仕事でも受けてしまいがちですが、そこは自分を叱咤すること。外部のパートナーさんに仕事を依頼するのであればなおのこと。経営者たるもの、コストを常にシビアにマネジメントすることが必須です。

また、私自身、営業が得意だったので、単価が安い案件でも、交渉・提案して価格を上げる努力もしました。最近流行りのクラウドソーシングなども使って探客していますが、価格が高い提案を出してもコンペで勝ったりします。絶対に安かろう悪かろうの仕事をしないことが信条です。

当社の業績推移ですが、ライター独立1年目の売上が450万円、アウトソーシングビジネスをスタートした2年目が700万円、3.年目が950万円。2年目以降は、目標どおりの年商を達成することができました。

ちなみに、私自身のライター活動は続けていますが、法人化してもパートナーであるライター側の目線を持ち続ける事、自分自身がライターとしてスペシャリストであり続ける事、フリーランス市場の動向を肌で感じる事を意識しています。これは当社として戦略の1つになっています。

5:メッセージ
起業のリスクをきちんと考えるべき。安易なまま第一歩を踏み出すな!

ライター業に関していえば、安易に起業するな、というのが私からのアドバイスです。

最近では、特にフリーランス、ノマドで成功されている方などが、メディアに出演して注目されていたりもしてますよ。「フリーっていいよ」という雰囲気が広がっていますが、成功しているのはごく一部の人だということを知ってほしいですね。

誰にでもできるという錯覚で、無計画・安易に独立する人が多く、結果、独立して数カ月で成り立たなくなったという話をよく聞きます。

もちろん、誰にも成功する可能性もあると思いますが、リスクをよく考えたうえで挑戦すべき。もし、会社に勤めながら副業ができるのであれば、経験にもなるし、事前にクライアントを得るきっかけにもなるので、そこから始めるのもいいと思いますよ。

そうしてある程度仕事が確実に取れるようになれば、いざ起業するとなった時に精緻な事業計画が立てられると思います。サラリーマンであれば毎月決まったお金がもらえますが、起業した後は何も保障がありませんから、事業計画はそのまま生きていくための計画ですから、甘さは禁物です。